「――粉と卵、だな。食材を探しに行ったかもしれん。」
「え?」
「アーサーはお前の“未来世界の話”を大切にしている。母親が好きだったものを作ろうとした。それから丁度商店街に行くことになった。それなら、卵や調味料を売る通りを探すべきだ。」
その言葉を信じ、私たちは足早に商店街の奥へと向かった。
するとーーー、
人々のざわめきの中、私は小さな影を見つけて、思わず声を張り上げた。
「アーサーっ!!」
振り返ったその顔――涙でぐしゃぐしゃの笑顔。
私の胸の奥で、何かが弾けたように熱くなる。
駆け寄って、ぎゅっと抱きしめた。
「どこに行ってたの! 心配したんだからっ!」
「ごめんなさい、ママ……」
アーサーは小さな手で、私の服をぎゅっと掴みながら言った。
「ママが未来で好きだった“ラーメン”作りたくて……。卵と粉、探してたの。」
その言葉に、胸がじんとした。
怒る気なんて、もうどこかに消えていた。
ホームズがそっと私たちのもとに膝をつき、穏やかに微笑む。
「……母親思いの動機だな。まるで誰かさんの推理よりも純粋で、的確だ。」
「ホームズさん……」
「アーサー、次は必ず“助手”を連れて行け。いいな?」
「うん、パパ!」
ふたりの会話に思わず笑みがこぼれた。
“世界一かっこいいホームズと、世界一かわいい息子”
――それが私の宝物だった。



