「……私は本気だよ、美月…。」
唇が触れ合う寸前――
「ママー!」
扉が勢いよく開き、小さな足音が駆け寄ってきた。
「ア、アーサー!?」
目をこすりながら、アーサーが寝ぼけ顔で立っていた。
「あ!パパがママを独り占めしてる!」
「なっ……!」
「ママ、もう寝よう! ぼく、ママと寝る!」
ホームズの腕から美月の手を掴み、ぐいっと引っ張るアーサー。
その必死な様子に、美月は笑いをこらえながら抱き上げた。
「はいはい、もう寝る時間ね。」
ホームズは肩を落とし、ため息をつく。
「……まったく、見事に私の敵だな。」
「ふふっ、ふたりとも大事な私の宝物ですよ。」
そう言って微笑む美月の顔を見たホームズは、
嫉妬の奥に、温かな幸福を感じていた。
扉が閉まると、静かな夜が戻る。
ホームズは苦笑しながら呟いた。
「……どうやら、今日も私の推理は外れのようだ。」
それでもその表情は、どこか満ち足りていた。



