その夜。
ホームズが仕事を終えて書斎から戻ると、ソファーで紅茶を飲む美月が微笑んでいた。
「ねえホームズさん、今日ね、アーサーが“初歩的なことだよ、ママ”って言ったの!」
紅茶を口にしかけたホームズは、ぴくりと動きを止めた。
「……なんだと?」
「ふふっ、あなたの真似なの。すっごく可愛くて!」
ホームズは少しだけ目を細めた。
「……我が息子ながら、早くも観察眼が鋭いな。」
「そうなのよ! もう将来が楽しみで……」
無邪気に笑う美月を見つめながら、ホームズの胸に
小さな違和感――いや、嫉妬のような感情が芽生える。
(……私の台詞で、美月が笑顔を向ける相手が息子とは)
「ホームズさん?」
「いや、少し……複雑な気分でね」



