やがて、古びた建物の前に着いた。 扉には【 221B 】と刻まれた真鍮の数字。 美月は目を見開いた。 ――まさか、本当に、あのベイカー街? 「ここが、私の下宿だ。」 ホームズがドアを押し開けた。 温かな明かりが、外の霧をやさしく押し返す。 香ばしい紅茶の香りと、どこか懐かしい空気。 「ホームズさん!こんな時間に――まあ!」 ふくよかな婦人が出迎えた。 頬を紅潮させ、エプロンを整えながら私を見つめている。 ――ハドスン夫人。小説で読んだ通りの女性だ。