「ホームズさん……あの日、あなたを守れてよかった。」



「美月が守ったのは私ではない。君が自分で未来を選んだんだ。」



 そう言って、ホームズは彼女の髪を指先でそっとすく。


 ロンドンの午後の光が、二人の影を長く伸ばした。



 その様子を、階下からハドスン夫人が微笑ましく見上げていた。



「まったく、あの子が帰ってきてからというもの……

 ホームズさん、やっと人間らしくなったわねぇ」




 夫人の呟きに、ワトソンが新聞をたたみながら頷いた。




「恋というのは、最も複雑な事件ですよ。

 ホームズにとっても、これが“人生最大の難事件”なんでしょう。」




 そして、ベイカー街の窓の向こうで、午後の鐘が鳴る。






 美月は笑って言った。





「ねぇ、ホームズさん。

 次の事件は、“恋の謎”を一緒に解きましょうね。」




「ふむ……その事件は、永遠に未解決のようだ。」





 二人の笑い声が、霧の街に静かに溶けていった。