「……本当に厄介な相手だ。君は。」



「え?」




 ホームズは立ち上がり、美月のそばに歩み寄った。


 その距離は、息が触れるほど近い。




「君は私の推理を狂わせ、思考を乱し、睡眠すら奪っていく。
 だが――」



 美月の手をそっと取り、指先に口づけを落とした。




「それでも、君がいないと私はもう、正常に動けない。

 ……それが、“愛している”という意味だろう?」







美月の頬が一気に紅潮した。






「……そんな言い方、ずるいです。」




「探偵は、いつでも手段を選ばない。」





 ホームズがいたずらに微笑むと、美月はその胸に顔をうずめた。




 鼓動の音が聞こえる。

 彼の胸の奥で、確かに“生きている音”。