机に向かっていたホームズは、片肘をつきながら眼鏡の奥の目を細めた。



「観察だよ、美月。成長というものを、科学的に興味深く観察しているだけだ。」



「……それを“観察”って言うんですか? “見惚れてる”って言うんですよ。」



「ふっ……君は相変わらず言葉の定義が感情的だ。」




 ホームズが小さく笑うと、美月は頬を膨らませて立ち上がり、
 そのままホームズの机に手をついて身を乗り出した。



「ねぇ、ホームズさん。再会してから、まだ“好き”って言ってもらってません。」





「……言っただろう。帰ってきた時に。」





「ううん。あれは“感情が爆発した時”です。ちゃんと、言葉で聞きたいんです。」




 ホームズは一瞬、返す言葉を失った。



 彼のような論理の人間にとって、“愛を口にする”ことほど非合理な行為はない。



 けれど、目の前の彼女の真っ直ぐな瞳が、そんな理屈を溶かしていく。