――そうか。 ここは、私が夢に見た十九世紀のロンドン。 でも今、ここにいるのは夢じゃない。 ーーー私…、もしかして、小説の中のシャーロック・ホームズのいる異世界に来てしまったの……? 歩きながら、ふと考えた。 小説の中の彼より、目の前のホームズはずっと“生きている”。 冷たくて、優しくて、不器用なまま。 私は制服の裾を握りしめた。 この世界で、もう一度息を吸う。 霧が、やさしく街を包んでいた。 そして―― あの名探偵と、私の物語が、静かに始まった。