その名を聞いた瞬間、ホームズの身体が反応した。

 パイプが床に落ち、灰が散る。

 彼は椅子を蹴るように立ち上がり、階段を駆け下りた。




「ホームズ! 待て!」



 ワトソンも慌てて後を追う。



 玄関の扉の前で、ホームズは息を呑んだ。




 そこに――彼女がいた。



柔らかな光の中、白いワンピースに身を包んだ女性が立っていた。



 髪は以前より少し長く、表情には大人びた穏やかさが宿っている。



 しかし、その瞳は間違いようがなかった。




 美月。




 彼女は微笑み、少し涙ぐみながら言った。




「――ただいま、ホームズさん!」