部屋の中に、時計の針の音だけが響く。





 その静寂を破るように、
 ――カシャン、カシャン。



 一階の玄関のドアにあるノッカーが鳴った。




「あら、依頼人の方かしら?」



 ハドスン夫人が立ち上がり、エプロンを直して階段を降りていく。




ワトソンはホームズの方を見た。

 しかしホームズは反応しない。

 依頼人などどうでもいい――そう言わんばかりに、ただパイプの煙を見つめていた。




 ……ところが。




 しばらくして、階下からドタドタと駆け上がる足音が聞こえた。



 ハドスン夫人だった。



 顔は真っ赤、息は荒く、言葉がうまく出てこない。




「は、はぁ、はぁ……ホームズさんっ!!」



 「どうしました、ハドスン夫人?」とワトソンが慌てて立ち上がる。




 「み! み! み――!」

 「落ち着いてください、何が“み”なんですか?」





 「美月よ!!!」