名前を口に出すことすら、もう長いことしていない。
だが、心のどこかで、いつも彼女が微笑んでいる気がしていた。
そんなホームズを見守るハドスン夫人は、いつもため息をついていた。
「まったく……美月がいなくなってからというもの、ホームズさんは食事もまともにとらないんだから。」
ワトソンは苦笑しながら紅茶を口にした。
「放っておきましょう、ハドスン夫人。彼は彼なりに整理をつけようとしているんです。」
「でも……未来に帰っちゃったんですものね……」
ハドスン夫人は、寂しげに微笑んだ。
ワトソンは黙って頷く。
彼女には、美月が滝に飛び込んでモリアーティを道連れにしたことを、話していなかった。
その方が、きっと幸せだから。



