ガシャン、と車両の扉が勢いよく開いた。



 風と共に、ひとりの男が現れた。
 白いシャツが血で滲み、腹に赤いハンカチを押し当てている。
 ジョン・H・ワトソンだった。


 彼は、言葉を発することなくホームズに歩み寄る。
 そして、次の瞬間――



ドカッ!



 鈍い音が響いた。
 ホームズが倒れる。

 殴られた。

 その力強い一撃に、ホームズは呆然とする。

 ワトソンは、怒りと涙を混ぜた声で叫んだ。



「何をやってるんだ、ホームズ!!
 汽車を止めるんだ!!」


 「……ワトソン……俺は、もう……美月が……」


 「うるさい!!」


 ワトソンの声が轟いた。
 その目には涙が光っていた。


「美月は、分かっててお前を守ったんだ!!
 それを無駄にする気か!!」


ホームズは息をのむ。
 ワトソンの叫びが、胸の奥の何かを突き破った。



「いいか!!この汽車はブレーキが効かない!
 このままじゃ何百人もの人が死ぬかもしれないんだ!!」


 ワトソンの怒号。
 その言葉が、ホームズの瞳に再び“光”をともした。