白い飛沫が、空へと舞い上がった。



 轟音が山々にこだまする。


 ホームズの目の前で、美月とモリアーティの姿が滝の下へと消えていった。





 あの一瞬が、永遠のように長く感じられた。




 ――終わった。




 誰かが汽車の車輪を鳴らしている音が、遠くで響いている。



それでも、ホームズには何一つ届かない。
 耳鳴りが続き、胸が締めつけられるように痛い。



「美月っっ……!!!」



 その名を呼んだ瞬間、声が震えた。
 唇が勝手に、涙を押し出すように動いた。



「……ぁあああああ!!!」



 初めてだった。
 シャーロック・ホームズという男が、声を枯らして泣いたのは。




崩れ落ちるように膝をつき、拳を床に叩きつけた。
 汽車は止まることを知らず、振動とともに絶望を刻み続けている。




「俺は……何のために……」



 嗚咽がこぼれた。



「こんな結末を、求めていたわけじゃない……!」




 震える指が、床に落ちていたものを掴む。

 それは、美月が口に縛られていた布。

 まだ、彼女の体温が残っているように感じた。