2025-11-29
『失恋に至る』

「この映画おすすめだよ」

僕が何気なく勧めた映画だったのに
その女性はちゃんと観てくれた上で
「あの映画よかった」と感想をくれ。

その女性を好きになる、少しだけ。

「この歌手の曲おすすめだよ」

僕が何気なく勧めた歌手だったのに
幾つもある曲をほとんど聴いた上で
「あの歌手、最高すぎるね」と女性。

その女性を好きになる、少しだけ。

勧めたものを「ありがとう」で
済まされてしまったときなんか
愛を実感できないと言うけれど。

勧めたものをしっかりと観て聴いて
感想まで送ってくるだなんてきっと
愛を大事にする人なのだろうと思う。

こんな人と付き合いたい、とは
これまでに幾度となく思ったが
大抵、そういう人は相手がいる。

その女性も例外ではなく
相手がいて幸せそのもの。

あくまでも僕との関係を友達と区切り
線を越えないように注意しているよう。

「この映画もおすすめだよ」
「今度一緒に観ませんか?」

或る日、僕は調子に乗って
こんなことを言ってしまい。

3日間、未読無視の状態が続いた。
気にしていないといえば嘘になる。

気にしていた、結構気にしていた。

ソファに座り込んだらまずスマホを確認
ベッドに潜り込んだらまずスマホを確認。

返信が来ていないか、が頭から離れず
お風呂に入っているときさえ気になる。

そしてお風呂からあがったらすぐ
スマホを確認するけど通知はなく。

「ごめんなさい、調子に乗りました」
僕は謝ってスマホを机の上に置いた。

それから数十分後には女性から
「謝らないでください」と来て
「でも一緒は無理かな」と続き。

「大丈夫、彼氏さんいましたもんね」
僕は言わなくても良き台詞を吐いた。

「ちょっと思い出しただけという映画」
「最近観たから、是非観てみてほしい」

女性から連絡が届く。
珍しくお勧めをされ。

「ありがとう、観てみる」と言い
僕はそのままスマホで映画を観る。

2時間ほどで観終えた。
内容は失恋映画だった。

ちょっとした出会いから過去に遡り
数年間の幸せな日常が描かれている。

そして今へと戻り
失恋に至っていた。

映画のエンドロールを観ないで
「考えさせられるものがあるね」
僕は女性にそう感想を送ったが。

それから返信が来ることは、なかった。

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