2025-11-30
『愛』

惜しみなく時間を使ってくれるって
愛、という言葉以外見当たらないよ。

そんなことを友人に言われ
ハッとしてしまった真夜中。

失恋をした友人を慰めるために
新幹線に揺られながら友人宅へ
数時間をかけて行った日のこと。

彼女がいた頃から友人は
自ら自炊をしていたから
料理のスキルが半端なく。

その日はとり天を作ってくれた。
お店で食べるよりも数倍美味い。

サクサクと音を立てて食べる僕と
やけ酒しながらテレビを観る友人。

僕と友人は小学生からの付き合いで
なんでも素直に言える関係性だった。

だから「なんで別れたんだよ」と
訊くことさえも躊躇いはなかった。

「いやー、俺、男の魅力がないってさ」
缶ビールを揺らしながらそう呟く友人。

2年弱付き合っていた彼女に
どういうことを言われた挙句
別れに至ったのか想像がつく。

「まぁ、一緒にいた時間が長かったから」
「そうなる可能性も0ではないからねー」

僕はとり天を食べる手を止めず
あくまでも自分の意見を述べた。

「彼女さ、俺が初めての恋人らしくてさ」
「きっと何も分からなかったんだと思う」

テレビのほうを向いている友人は
きっとテレビの内容なんて頭には
1つも入っていないことが伝わる。

ただ、僕に1つ1つ伝えるために
言葉を頭の中で選んでいるような。

男同士は目を見て本音を言うことが
少しばかり恥ずかしい生き物だから
こうして視線を逸らして本音を言う。

「確かに、男としての魅力を感じないとして」
「別れに至るにはあまりにも幼稚すぎるかも」

友人の話に答える僕は
箸を置いてお酒を飲む。

「お前、酒飲んで大丈夫なのか」
友人は僕を心配してくれるけど。

「一緒に飲みたい気分だから」
僕は飲めない酒を喉に通した。

「けど、一緒に過ごした時間は幸せだった」
友人は少し上を見て、そう一言だけ呟いた。

それから間髪入れずに僕のほうを見て
冒頭の言葉を言い放ってきたのだけど。

そのときの友人は涙ぐんでいて
今にも泣いてしまいそうだった。

「愛、か。素敵な表現だな」
僕はクスッと笑ったけども。

「お前は時間をかけて会いに来てくれた」
「きっとこの関係にも愛は存在するよな」

友人はもう、その頃には泣きじゃくっていた。
訴えかけるように言われた台詞でハッとする。

普通、容易に会いに行こうとは思わないのに
友人の悲しみを考えたらと会いに行っていた。

「存在するよ、愛は」
僕も少し泣いていた。

いや、結構泣いた。わんわん泣いた。
1つの部屋で男2人が泣いている中。

テレビからLove so sweetが流れた。

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