言の葉の泡

2025-12-19
『眩しさにやられる』

冬、街が眩しくて前も見えない夜。

どうせなら眩しい街を見下ろしてやろうか、と
スカイプロムナードに1000円を払って入場。

エレベーターに乗って一気に42階まで行く。
扉が開くとそれなりに観光客がまばらにいた。

僕はそれを縫うかのように進み
窓越しに見える眩しい街を睨む。

人肌恋しくなってしまうよ、こりゃ。
カップルが椅子を陣取り座っていた。

「ご機嫌なことで」と皮肉めいた感情が湧く。
口には出すまい、と当たり前なことも思った。

それなりに大きなクリスマスツリーが
威圧感を漂わせつつ煌めき続けている。

海外から来たであろう観光客が
そのクリスマスツリーを囲んで
笑みを浮かべながらピースした。

僕は窓の隙間から入り込んでくる
冷気にやられてしまっているから
手をグーにしてポケットに入れた。

これがジャンケンだとすれば
チョキ対グーで僕の勝ちだが
楽しそうな観光客を眺めると
圧倒的敗北を感じてしまった。

眩しくて前を見えない街を見下ろすため
わざわざ1000円を払って入場したが
街よりもそこにいる人らを眺めてばかり。

気付きたくなかった。

街のせいで前を見れないというより
街にいる人が発する眩しさのせいで
自分は前を見れていなかったことに。

僕だって冬を満喫するんだ、と強がった。
窓から見える街にカメラを幾度も向ける。

カシャ、カシャ、と虚しい音が鳴り
ライブラリに今見た景色が残りゆく。

指で数えられるほどだけ見返す写真。
「綺麗だね」と言う人も隣にいなく。

帰路についた。

来た道を戻るだけなのだけれど
カップルらが「綺麗」と呟く夜。

42階から降りるため
エレベーターに乗った。

相当な高さから降りるのだから
それ相応の滞在時間ができる中。

僕はさっき撮った写真を見返した。
ただ、1枚だけ輝きを放たぬ写真。

実物は威圧感があったというのに
写真に写るそれは、威圧感がなく。

まるで僕みたく寂しさを漂わせている。
街の中に佇むクリスマスツリーだった。

反射したのが原因で、偶然撮れたもの。
1000円を払った価値は回収できた。

チン、と鳴ってエレベーターの扉が開く。
一緒に乗っていた人らが先に降りていき。

最後に降りた。

来たときは俯いていたのに
出るときは前を見て歩けた。



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