2025-12-01
『夢追い人』
今は私と話してくれているけれども
きっと運命の人に出会ってしまえば
あなたから返信が来なくなるのでは。
ふと、不安に襲われる。
別に付き合っているわけではなく
お互いが暇で話しているのだから
いずれ飽きが来ることも想像つく。
私もあなたも運命の人に出会えず
こうしてダラダラと話していれば
いつか付き合えるような気もする。
来年から上京すると言い出したあなた。
あまりにも突然のことで驚くけれども。
「夢があって上京するんだ」
夢を追い続けているあなたのことを
私ごときが止めるわけにもいかずに。
「いいね、夢があるって素敵」
離れてしまうことが寂しく
けれどあなたが幸せそうで
どうにもできぬ心が苦しい。
地元が同じでよく遊ぶ仲だった。
男女の友情が成立してしまう程。
周りからは「付き合っちゃえ」と言われたけど
あなたが「なんでだよ」と笑っているのを見て
私も本音を隠すかのように「なんで」と笑った。
「夢ってどんなもの?」
私はあなたの夢を知りたく
何気なく訊いてみたけれど。
「叶ったら教えるよ、それまで秘密」
そんなことを言われてしまい
あなたを忘れられない理由が
胸の奥底に刻まれたと気付く。
「えー、まあいいや」
知りたい欲をこれでもかと抑え
上京してもこうして話そうねと
文字として本音をあなたに伝え。
「そうだね、話そう」
上京をする前の最後の連絡が
これだったことが履歴に残る。
見返してみると、それからの連絡は
私からあなたに送ってばかりのもの。
「東京って住みやすいの?」
「人混みには慣れてきた?」
「酒付き合いも大変かな?」
今思うと迷惑だと思うけど
それくらい話足りなかった。
返信が減ったことに気付いたのは
それから数カ月が経った後のこと。
書店でたまたま触れた本の著者が
見覚えのある名前であなただった。
夢とは作家のことだったのかと思い
ペラペラと書かれている内容を読む。
恋愛小説だった。
地元を離れた青年が上京し
そこで出会った女性に恋し
幾つもの思い出ができる話。
フィクションであれ、と願った。
返信が減った理由はこれなのか。
本を書く時間が大変だったからか
もしくは女性との恋に落ちたから。
想像したくないあなたの現在を
これでもかと想像してしまうが。
結局は本人にしか分からぬ現在。
本をそっと置いて私は失恋した。
ただ著者プロフィールに書かれていた
好きな曲は私が教えたものだったから。
失恋の傷は、痛くなかった。
それから辺りを少し見渡してみると
その付近に置かれていたPOPに一言
「著者のサイン会」と書かれている。
数日後に東京でサイン会があるのだと。
私はスマホを取り出して、東京行きの
飛行機を片道分だけすぐに予約をした。
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『夢追い人』
今は私と話してくれているけれども
きっと運命の人に出会ってしまえば
あなたから返信が来なくなるのでは。
ふと、不安に襲われる。
別に付き合っているわけではなく
お互いが暇で話しているのだから
いずれ飽きが来ることも想像つく。
私もあなたも運命の人に出会えず
こうしてダラダラと話していれば
いつか付き合えるような気もする。
来年から上京すると言い出したあなた。
あまりにも突然のことで驚くけれども。
「夢があって上京するんだ」
夢を追い続けているあなたのことを
私ごときが止めるわけにもいかずに。
「いいね、夢があるって素敵」
離れてしまうことが寂しく
けれどあなたが幸せそうで
どうにもできぬ心が苦しい。
地元が同じでよく遊ぶ仲だった。
男女の友情が成立してしまう程。
周りからは「付き合っちゃえ」と言われたけど
あなたが「なんでだよ」と笑っているのを見て
私も本音を隠すかのように「なんで」と笑った。
「夢ってどんなもの?」
私はあなたの夢を知りたく
何気なく訊いてみたけれど。
「叶ったら教えるよ、それまで秘密」
そんなことを言われてしまい
あなたを忘れられない理由が
胸の奥底に刻まれたと気付く。
「えー、まあいいや」
知りたい欲をこれでもかと抑え
上京してもこうして話そうねと
文字として本音をあなたに伝え。
「そうだね、話そう」
上京をする前の最後の連絡が
これだったことが履歴に残る。
見返してみると、それからの連絡は
私からあなたに送ってばかりのもの。
「東京って住みやすいの?」
「人混みには慣れてきた?」
「酒付き合いも大変かな?」
今思うと迷惑だと思うけど
それくらい話足りなかった。
返信が減ったことに気付いたのは
それから数カ月が経った後のこと。
書店でたまたま触れた本の著者が
見覚えのある名前であなただった。
夢とは作家のことだったのかと思い
ペラペラと書かれている内容を読む。
恋愛小説だった。
地元を離れた青年が上京し
そこで出会った女性に恋し
幾つもの思い出ができる話。
フィクションであれ、と願った。
返信が減った理由はこれなのか。
本を書く時間が大変だったからか
もしくは女性との恋に落ちたから。
想像したくないあなたの現在を
これでもかと想像してしまうが。
結局は本人にしか分からぬ現在。
本をそっと置いて私は失恋した。
ただ著者プロフィールに書かれていた
好きな曲は私が教えたものだったから。
失恋の傷は、痛くなかった。
それから辺りを少し見渡してみると
その付近に置かれていたPOPに一言
「著者のサイン会」と書かれている。
数日後に東京でサイン会があるのだと。
私はスマホを取り出して、東京行きの
飛行機を片道分だけすぐに予約をした。
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