2025-12-02
『ピアス』

恋人の耳たぶにある
ピアス穴を見るたび
過去の女性が浮かぶ。

私は彼の誕生日ということもあり
少し値の張るピアスをプレゼント。

「なにこれ、めっちゃ嬉しい」

そう言いながら喜ぶ彼を見て
渡せて良かったと私も嬉しく。

「ちょっとつけてみるわ」

彼は丁寧に包装された箱を開け
耳についていたピアスを外した。

そして箱から新しいピアスを取り
穴の開いた耳たぶにそれを通すと。

まるでそこに住み着いていたかのように
彼に馴染んで輝きを放つピアスを見られ
「似合ってるよ」と私は嬉しくて言った。

そしてスマホをカメラモードに切り替え
彼も見られるように、と内カメラにする。

「ほんとだ、似合ってるじゃん」と嬉しそうな彼。
「ピアスとか数年ぶりに変えた」と楽しそうな彼。

彼にはピアス穴が1つだけあって
そこは私のプレゼントで埋まった。

過去に彼から、ピアスの話を聞いたことがあった。

元カノにピアス穴を開けてもらい
元カノに貰ったピアスを耳にはめ
お揃いにしていた過去の話を少し。

過去の話なのだから嫉妬はしないけれど
彼には過去に愛していた人がいるという
事実があることに少しだけ悲しくはなる。

今はもう私の恋人なわけだし
幸せに変わりはないけれども
彼のピアス穴が視線に入ると
その話を思い出していたから。

私はピアスをプレゼントした。
アルバイト1か月分くらいの。

アルバイトは相当大変だったけれど
彼へのプレゼントのことを考えれば
もっと頑張ろうと思えていたわけで。

実際、プレゼントをされた彼は
こんなにも笑顔で私にお礼をし
嬉しそうに何度もスマホを見る。

「まじで似合ってる」
「格好良くなった!」

そんなことを1人でボソボソと
スマホに向かって呟いている彼。

「あはは、そこまで喜んでくれるなんて」
「プレゼントした私まで嬉しくなれるよ」

「ありがとう」と彼は私に抱きつき
私に見せつけるかのようにピアスを
こちらに向けてくるから私は何度も。

「格好良い、格好良い」と言った。

その頃にはもう、彼のピアス穴を見ても
過去の女性のことは思い浮かぶことなく
ただその瞬間を幸せだと噛み締めていた。

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