2025-11-08
『会わなければならぬ』

こんなに容易に会えてしまう時代に
会わないという選択をしている僕ら。

現実ではすれ違うことのない人と
ネットでは指先ひとつで繋がれる。

会わなくても完結してしまう時代に
会おうとは思えないのかもしれない。

ネットで自分なりの発信を続けていると
自分と似た人が寄ってくることがあった。

類は友を呼ぶ、とはこのことだと思う。
自分が醸し出していた雰囲気と似た人。

惹かれてしまう。その人に僕は。
その人こそ惹かれていた、僕に。

「いつも見ています、応援しています」

何気ない連絡が送られてくるたび
どういう返信をするべきかと悩む。

きっと相手の気持ちまでも考えて
どう返信をすべきか考える時点で
好意を抱いているのだろうけれど。

気付かないフリをする。
あくまで惹かれただけ。

「ありがとうございます」
「あなたの発信も見たい」

この人は発信をしないタイプの人だった。
密かに僕のことを応援してくれるような。

だから紡ぐ文字を見てみたかった。
どんな言葉をこの人は選ぶのかを。

僕の必死なアプローチを経て
少しばかりの発信をし始めた。

やはり、惹かれる魅力の詰まった文章だった。
このときばかりは会いたい、そう思っていた。

きっと美しい文章を書く人ほど
実は現実では可笑しい人が多い。

可笑しいとは悪い意味ではなく
他人を翻弄させてしまうほどに
猫みたいに儚さを帯びている人。

ただ、文章を読んでいるだけだというのに
この人の人物像を勝手に想像してしまって。

そんな話を親しい友人にしたことがある。
友人は僕の目を見つめて、ただ一言だけ。

「想像するってことは、恋だと思うよ」

ハッとした。好意に気付かないフリをしていたのに
親しい友人に気付かないフリをまんまと突っつかれ。

気付かされた、恋していること。
その日、僕が投稿をした言葉は。

「会いたいです、会わなければいけない気がします」

その投稿に、すぐいいねがついた。
見慣れたアイコンのその人だった。

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