2025-11-09
『実は、別れている』
多分、周りに座っている人らは
僕らを見て、恋人同士なのだと
思っているかもしれないけれど。
実は、別れている。
最後は笑ってお別れがしたい、という
僕と彼女の願いが一致したことにより
久しぶりに懐かしい喫茶店で過ごした。
別れは、呆気なかった。
僕と彼女の出会いは学生時代に遡り
共通点があまりにも多くて付き合い
同棲みたいなことをするまでの関係。
ずっとこのまま続けばいいのに、と
彼女は常日頃から言ってくれていた。
けれど学生時代のような柔軟さは
社会人になれば会社に奪われゆき
いつしか奴隷みたいな日が続いた。
相変わらず同じ家から別々の職場へと
行っては帰ってくるを繰り返す日々が
何か月も何年も続くのだろうと思った。
この頃になれば彼女がずっと言っていた台詞も
意味を為さなくなっていることにも気付いたが
もう彼女と話をすることさえ疲れ切ってしまう。
愛が、なくなった。
そう気付いたのは、彼女が出て行った日のこと。
些細なきっかけで喧嘩になってしまったが故に。
追いかけるべきなのだと本能では思っていても
追いかけるほどに彼女のことを愛していないと
このときばかりは悲しくなったのを覚えている。
それから、別れに至った。
出て行ったとしても帰ってくる場所なんて
同棲している家以外に思い当たるわけなく
数時間もすれば彼女は家に帰ってきたから。
「別れようか」と言った。
「そうだね」と頷くだけ。
それから1か月が経った。
「最後は笑ってお別れがしたい」
そんな連絡が、僕のもとに届く。
「僕も同じことを思ってた」と送り
「あの喫茶店で待ってる」と続けた。
そして今日、久しぶりに彼女と会った。
なんだかよそよそしくて嫌になるけど。
もう他人なんだし、そんなもんかと思う。
でも「何を注文する?」と訊かなくても分かる。
きっと「同じのをください」といつも言うから。
店員さんを呼んで注文をした。
「ミルクティーをください」
僕はそれだけ言って黙った。
「アイスティーをください」
彼女はそれだけ言い黙った。
あ、もう目の前にいる女性は彼女ではなく
赤の他人で親しくもないんだと寂しくなる。
「どうした?顔色悪いけど」
目の前の女性が言ってくる。
「大丈夫、なんでもないよ」
そんなことを言ってみると。
「うふ、本当?」と女性は笑った。
そのときの笑顔は彼女に似ていた。
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『実は、別れている』
多分、周りに座っている人らは
僕らを見て、恋人同士なのだと
思っているかもしれないけれど。
実は、別れている。
最後は笑ってお別れがしたい、という
僕と彼女の願いが一致したことにより
久しぶりに懐かしい喫茶店で過ごした。
別れは、呆気なかった。
僕と彼女の出会いは学生時代に遡り
共通点があまりにも多くて付き合い
同棲みたいなことをするまでの関係。
ずっとこのまま続けばいいのに、と
彼女は常日頃から言ってくれていた。
けれど学生時代のような柔軟さは
社会人になれば会社に奪われゆき
いつしか奴隷みたいな日が続いた。
相変わらず同じ家から別々の職場へと
行っては帰ってくるを繰り返す日々が
何か月も何年も続くのだろうと思った。
この頃になれば彼女がずっと言っていた台詞も
意味を為さなくなっていることにも気付いたが
もう彼女と話をすることさえ疲れ切ってしまう。
愛が、なくなった。
そう気付いたのは、彼女が出て行った日のこと。
些細なきっかけで喧嘩になってしまったが故に。
追いかけるべきなのだと本能では思っていても
追いかけるほどに彼女のことを愛していないと
このときばかりは悲しくなったのを覚えている。
それから、別れに至った。
出て行ったとしても帰ってくる場所なんて
同棲している家以外に思い当たるわけなく
数時間もすれば彼女は家に帰ってきたから。
「別れようか」と言った。
「そうだね」と頷くだけ。
それから1か月が経った。
「最後は笑ってお別れがしたい」
そんな連絡が、僕のもとに届く。
「僕も同じことを思ってた」と送り
「あの喫茶店で待ってる」と続けた。
そして今日、久しぶりに彼女と会った。
なんだかよそよそしくて嫌になるけど。
もう他人なんだし、そんなもんかと思う。
でも「何を注文する?」と訊かなくても分かる。
きっと「同じのをください」といつも言うから。
店員さんを呼んで注文をした。
「ミルクティーをください」
僕はそれだけ言って黙った。
「アイスティーをください」
彼女はそれだけ言い黙った。
あ、もう目の前にいる女性は彼女ではなく
赤の他人で親しくもないんだと寂しくなる。
「どうした?顔色悪いけど」
目の前の女性が言ってくる。
「大丈夫、なんでもないよ」
そんなことを言ってみると。
「うふ、本当?」と女性は笑った。
そのときの笑顔は彼女に似ていた。
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