2025-11-15
『木の下の椅子』

「きっと俺は君から愛されるべきじゃない」

後ろから聞こえてきた言葉が
あまりにも衝撃的過ぎたが故。

僕は気付かれないように
空を眺めながら振り返り
少しばかり状況を眺めた。

大きな公園に生えている木の下に
幾つもの椅子が置かれているから
僕は端にある椅子に腰かけていた。

スタバで買ったホワイトモカを
股で挟みながら本を読もうかと
鞄に手を入れたところで冒頭の
言葉が後ろから聞こえてしまい。

そっと鞄に入れた手を抜き
空を眺める素振りをしつつ
振り返って見てみたところ。

如何にも釣り合っていない
男性と女性が椅子に座って
何やら話しているみたいで。

男性はホストみたいな風貌をしていて
女性は未成年みたいな風貌をしている。

朝っぱらから面白いものを見れたことが
僕にとってはちょっと嬉しいことだった。

しかし女性からすれば人生最大の
難所と言っても過言ではなさそう。

どれだけお金を貢いだとしても
男性に好かれる未来は訪れない。

幼さが抜け切れていない声で
女性は男性に「でも」と言う。

けれど男性は面倒臭そうに頭を掻き
そのせいだろうか、金髪が数本抜け
男性も悩んでいることがあるのだと
僕は感じ取ることができたけれども。

拙いメイクで可愛くなった女性は
男性の本心に気付いてなさそうな。

あまりにも自分とは違う世界観過ぎて
ずっと眺めているにはカロリーが高い。

そろそろ本を読もうかと
鞄に手を入れたところで
スマホのバイブに気付く。

「どこにいるの?」

彼女からの連絡だった。

「木の下の椅子に座っているよ」
そう返して鞄に入れた手を抜く。

「私も木の下の椅子に座ってるけど」
そんな返信が来てしまい、戸惑うが。

もう1つ隣の木の下の椅子に
愛する彼女が座っているのが
輝いているように見えたから。

僕は椅子から立ち上がり
彼女の元へと歩を進めた。

「よっ」と彼女に声をかけてから
「あっちかと思った」と指を指す。

僕と彼女は指の指す方向を見た。

木の下の椅子にはもう
誰も座っていなかった。

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