2025-11-16
『冬』

3年前、付き合っていた彼女と
デートをしようという話になり
待ち合わせ場所は駅前にあった
大きなクリスマスツリーを指定。

「可愛くお化粧しなくちゃ」
「楽しみすぎて眠れないよ」

そんな言葉が送られてくるたびに
僕のことを好いているのだと知る。

「もっと可愛くなっちゃうね」
「早く会いたいな、楽しみだ」

僕も素直に気持ちを伝えてみたが
彼女はリアクションで終わらせた。

それから数日後、デートの日となり
僕は早めに待ち合わせの場所へ行き
彼女を待っておこうと思ったのだが
きっと同じことを思ったのだろうか。

クリスマスツリーの近くに
ポツンと佇んでいる彼女が
凄く愛らしくて写真を撮る。

「めっちゃ可愛い女の子いた」という文字と
撮ったばかりの写真を彼女に送ろうとしたが
彼女のほうを見ると僕のことを見つめていた。

だから撮った写真は送ることなく
打った文字だけを彼女に送信した。

目の前にいるから話せばいいというのに
彼女はスマホを取り出して既読をつけて
「格好良い男性がいて照れる」と彼女は
僕に対して本音を送ってきてくれたから。

既読をつけて返信はせず
彼女のもとへと向かった。

「どうも、格好良い男性です」と自己紹介。
「めっちゃ可愛い女の子です」と自己紹介。

あはは、と笑った。

これまで幾つもの年を重ねてきたが
クリスマスツリーの下で笑う瞬間は
このときが初めてのことだったから
「せっかくだし写真撮ろ」と言った。

いつも可愛い彼女はより可愛くなっていて
なんだか自分の彼女ではないみたいな感覚。

撮った写真を一緒に眺めている時間も
一生続くような幸せを包み込んでいた。

今でもカメラロールにはその写真が残っていて
毎年のようにクリスマスツリーは見られるけど
この年みたいな幸せは、もう手に入れられない。

冬、季節に苦しめられてしまうよ、僕は。
せめて、別れの話は書かないことにする。

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