2025-11-21
『最後』

「これが最後になる可能性があります」

或る日突然、私の目の前に
こんな文字が表示され始め。

お父さんに「これ見える?」と訊いても
「何を言ってるんだ」と呆れられるだけ。

それは彼氏と連絡を取り合っている最中のこと。

2年半も付き合っていたわけだから
それなりに思い出もあるのだけれど
「魅力が分からなくなった」という
理由で別れ話をすることになった夜。

「異性としての魅力っていうのが」
「君から感じ取ることができない」

彼氏は淡々と私に対してどうして
冷めてしまったのかを教えてくれ。

素直にそういったことを伝えてくれることは
私にとっても嬉しいことではあったのだけど。

やはり、別れは辛い。

「もう、どうしようもないね」
「他人同士になるべきかもね」

私は彼氏の思いも汲み取って
別れを選択しようと思いつつ
震える指で文字を打ったけど。

それを送信しようとしたときに
冒頭の文字が目の前に表示され
一旦、送信をしないで既読無視。

なんだこれ、と表示された文字に
触れてみようとしたけれど透ける。

なんだか怖くなってお父さんに
「これ見える?」と訊いたけど
呆れられて無視をされてしまい。

彼氏に送信しようと書いていた文字を
とりあえず送るまいと削除してみると。

目の前に表示されていた文字も
空気と混じり合うように消えた。

「私、まだ別れたくない」

そんな文字も書いてみた。
けれどあの表示はされず。

「そうだね、別れよっか」

そう書いてみると目の前に
あの文字が表示され始めた。

私と彼氏の関係が終わる可能性があるのだと
知らせてくれているのだとすぐに察せたけど。

「これが最後になる可能性があります」

その文字を見るとどうしても
彼氏とまだ繋がっていたいと
心底、願っている自分がいた。

数十分間、その表示に悩まされていた私。
そんなことも知らない彼氏は追うように
「ごめんね、俺、素直に言い過ぎた」と
反省の意が込められたメッセージが届く。

「ううん、大丈夫」と書く私。
あの文字は表示されなかった。

だから送信をして、どう結末を迎えるか
表示される文字に苦しめられずに最後を
より明るいものへとできるか考えていた。

そんな中。

「ごめん、明日って予定ある?」
「会って話をするべきだと思う」

彼氏からの連絡だった。
別れ話は面を合わせて
したほうが良いのだと
気付くにはもう遅いが。

「明日は予定ないから会えるよ」
「カフェでいいかな、あそこの」

初めて出会ったカフェを私は指定。
思い出の詰まった場所だったから。

「わかった、また明日」
彼氏から送られてくる。

「また明日ね」

私も返信をしようと思い
そんな文字を書いたとき。

「これが最後になる可能性があります」
目の前にこの文字は表示されなかった。

--