言の葉の泡

2025-12-08
『月が綺麗だった』

僕には、自認ブスな女友達がいる。
どんなに可愛いと褒めたところで。

「ほんとにブスなんですよ」とか
「眼科行ったほうがいいよ」とか。

きっと眼科に斡旋する事で
幾らか紹介料が入るような
システムなんじゃないかと
疑うほどに何度も言うから。

「じゃあ、ブスなんだ」と僕が言うと
「そう、ブスなの」と納得してくれる。

けれど傷心しているだろうし
「ネイルは可愛いじゃん」と
僕は気遣いのつもりで言った。

「ネイルは可愛いんだよね」とか
「髪の毛にもこだわってる」とか。

ちゃんと自分がどこを可愛くしているか
丁寧にいちから説明してくれるところが
またそれはそれは可愛らしいのだけれど。

「ね、可愛いじゃん、全て」と僕が言うと
それは間違っているみたいで毎度のごとく
「ほんとにブスなんですって」と言われる。

どうやらメイクをしているときに
盛れていれば可愛いと自認するが
すっぴんで眼鏡をかけているとき
どう足掻いてもブスになるのだと。

「そんなにブスじゃないと思うけど」
「見せてごらん、すっぴんの写真を」

女友達は「特別ね笑」と言いながら
すっぴんの写真を送ってきてくれた。

どう見たってブスなんかではなく
可愛らしい女の子なのだけれども。

「え、これでブスだと思ってるの?」と訊くと
「すっぴんでも街を歩けるようになりたい」と
女の子特有の悩みみたいなものを聞かせてくれ。

「偉いね、毎日ちゃんと化粧して」と
化粧をしたことがない僕は送っていた。

鏡に映されている自分の姿よりも
人に見られている自分の姿よりも
自分がどう思っているかが大事で
ブスだと思うのならブスなんだと
それ以上僕は、突っ込まなかった。

ただ「会うときは似合う眼鏡を見つけよう」と
改善策みたいなものを提示して終止符を打った。

それからは「ブス」という単語を極力避け
面白かった思い出話に花を咲かせていたが。

「最近買った眼鏡が似合わなくて」と僕が
何気なく言っただけなのに女友達は爆笑し
「私もあなたもブスだね!」と言ってきた。

少しばかり、その言葉に救われた。
ちょっと高かった眼鏡だったから。

「君よりかはブスじゃないと思う」と僕は抵抗。
「どうかな、早く会って見てみたい」と女友達。

自認ブスに救われてしまった深夜3時。
冬、空気が澄んでいて月が綺麗だった。

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