2025-12-10
『お幸せに』
会いたい、心底思ったとき
大抵の場合は時すでに遅し。
別れて1年が経つ元カノに
無性に会いたくなったから
「会いたい」とだけ送った。
まだお互いの誕生日を祝えるほど
関係が悪くはなっていないわけで
「おめ」「あり」と送り合った仲。
深夜1時を回り、僕の送った連絡に
元カノは既読をつけてスタンプ1つ
返してくるほどに淡白な女性だった。
「なんだよ、スタンプだけって」と
僕はあの頃みたく、冗談めいた返信。
相変わらず、窓から見える月は綺麗。
読書をして時間を潰す間
既読をつけていないかを
幾度となく確認する自分。
それがまるで「未練あります」みたいで
自分が自分ではないようで気持ちが悪い。
本を一旦閉じて、スマホを取る。
その動作の中で僕は指を切った。
ページを捲るたびに緊張する。
指を切るか切らまいかの2択。
僕の指には幾つかの切り傷がある。
いつも本を読んでいるときに切る。
どう考えたって不器用だ。
嗚呼、元カノとの記憶を
鮮明に思い出してしまう。
いつも指を切ってしまう僕に
「ほら、指出して」と言って
絆創膏を貼ってくれたことが。
自分は台所に置いてあった絆創膏を取り
そんなことを思い出しながら指に貼った。
冷えた床を歩くのは
冬、相当なしんどさ。
そしてベッドに戻り
読書を始めるけれど。
その前にスマホをまた確認した。
通知が0件なことだけが見える。
そして読書をした。した。した。
気付いた頃には外が明るかった。
眠っていた。
台所のほうを見ると
出しっぱなしにした
絆創膏が寂しそうに
こちらを向いている。
「ごめんごめん」と言って
絆創膏を収納ケースに入れ
「寒いな、」と僕は言って
再びベッドに戻っていった。
そのときスマホに手が触れて
真っ暗な画面が明るくなった。
「もう遅いの」とだけ書かれていて
「写真を送信しました」ともあった。
恐る恐るどんな内容かを
まずは長押しをして確認。
その写真には元カノと見知らぬ男性だけが
僕の知らない場所で幸せそうに写っていた。
「もう遅いの」という意味が何か
考えれば分かる気がしたけれども
分かりたくなくて思考を停止した。
僕はどの言葉が適しているか分からず
ただ、リアクションをして終わらせた。
傷心しきった僕の心には
きっと絆創膏はいらない。
元カノが僕には必要だった。
けれどもう、時すでに遅し。
どうか、お幸せに。
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『お幸せに』
会いたい、心底思ったとき
大抵の場合は時すでに遅し。
別れて1年が経つ元カノに
無性に会いたくなったから
「会いたい」とだけ送った。
まだお互いの誕生日を祝えるほど
関係が悪くはなっていないわけで
「おめ」「あり」と送り合った仲。
深夜1時を回り、僕の送った連絡に
元カノは既読をつけてスタンプ1つ
返してくるほどに淡白な女性だった。
「なんだよ、スタンプだけって」と
僕はあの頃みたく、冗談めいた返信。
相変わらず、窓から見える月は綺麗。
読書をして時間を潰す間
既読をつけていないかを
幾度となく確認する自分。
それがまるで「未練あります」みたいで
自分が自分ではないようで気持ちが悪い。
本を一旦閉じて、スマホを取る。
その動作の中で僕は指を切った。
ページを捲るたびに緊張する。
指を切るか切らまいかの2択。
僕の指には幾つかの切り傷がある。
いつも本を読んでいるときに切る。
どう考えたって不器用だ。
嗚呼、元カノとの記憶を
鮮明に思い出してしまう。
いつも指を切ってしまう僕に
「ほら、指出して」と言って
絆創膏を貼ってくれたことが。
自分は台所に置いてあった絆創膏を取り
そんなことを思い出しながら指に貼った。
冷えた床を歩くのは
冬、相当なしんどさ。
そしてベッドに戻り
読書を始めるけれど。
その前にスマホをまた確認した。
通知が0件なことだけが見える。
そして読書をした。した。した。
気付いた頃には外が明るかった。
眠っていた。
台所のほうを見ると
出しっぱなしにした
絆創膏が寂しそうに
こちらを向いている。
「ごめんごめん」と言って
絆創膏を収納ケースに入れ
「寒いな、」と僕は言って
再びベッドに戻っていった。
そのときスマホに手が触れて
真っ暗な画面が明るくなった。
「もう遅いの」とだけ書かれていて
「写真を送信しました」ともあった。
恐る恐るどんな内容かを
まずは長押しをして確認。
その写真には元カノと見知らぬ男性だけが
僕の知らない場所で幸せそうに写っていた。
「もう遅いの」という意味が何か
考えれば分かる気がしたけれども
分かりたくなくて思考を停止した。
僕はどの言葉が適しているか分からず
ただ、リアクションをして終わらせた。
傷心しきった僕の心には
きっと絆創膏はいらない。
元カノが僕には必要だった。
けれどもう、時すでに遅し。
どうか、お幸せに。
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