2025-12-11
『200円』
告白という段階を踏むことなく
もはや付き合っている雰囲気を
ぷんぷん漂わせている私と貴方。
正式に「付き合いましょう」という
言葉が交わされていないからこその
私と貴方にしか出せない空間がある。
友達からは「付き合ってないの?」と
幾度となく訊かれてきたのだけれども
今の関係が幸せなのだからそこまでを
求めてしまうのはなんだか違うようで。
いつも貴方が会いに来てくれた。
私は待っていればいいだけの話。
改札の出口で待つ私に
「よっ」と言った貴方。
服の系統まで似通っちゃっていて
もはや付き合っていないことすら
誰も疑う余地がないほどの関係性。
ゲームセンターに行った。
「俺、クレーンゲーム得意なのよ!」と
自信満々に言う貴方を信じてお金を託す。
100円が吸い込まれていき
貴方は得意げに操作している。
必殺技を出すような声量で
「ここだ」と貴方は言った。
ゲームセンター内は喧騒としているのに
貴方の声だけが響いているように聞こえ。
可笑しくて笑ってしまった私は
思わず貴方の肩を叩いてしまい。
少しずれたクレーンが景品から遠ざかり
貴方は私のほうを見てニコっと微笑んだ。
「もしかして、叩いた?」と貴方は
微笑みながらも低い声で言ってくる。
「えへへ」と可愛い子振る。
「君もやってみなよ」と言われ
私も100円を投入してプレイ。
自分的に納得のいく位置で
決定ボタンを押そうと思い
「ここだ」と言ったところ。
さっきの私みたいに貴方も
笑いながら肩を叩いてきた。
ずれた。景品からは遠ざかる。
不満げな表情で貴方を見るが。
あははと笑っている貴方が素敵で
一瞬の出来事にさえ見惚れていた。
景品からずれて遠ざかったが
私と貴方の心は近付いていた。
200円で心が近付けるのなら
何よりもコスパ良いじゃないか。
ゲームセンターを出た。
「何も取れなかったね」と私は言う。
「笑えたし良かった」と貴方が言う。
付き合っていない2人だけの空間。
まるで付き合っているかのような。
その曖昧さが1年前の私には
途轍もなく心地の良いもので
今は取り戻せない幸福だった。
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『200円』
告白という段階を踏むことなく
もはや付き合っている雰囲気を
ぷんぷん漂わせている私と貴方。
正式に「付き合いましょう」という
言葉が交わされていないからこその
私と貴方にしか出せない空間がある。
友達からは「付き合ってないの?」と
幾度となく訊かれてきたのだけれども
今の関係が幸せなのだからそこまでを
求めてしまうのはなんだか違うようで。
いつも貴方が会いに来てくれた。
私は待っていればいいだけの話。
改札の出口で待つ私に
「よっ」と言った貴方。
服の系統まで似通っちゃっていて
もはや付き合っていないことすら
誰も疑う余地がないほどの関係性。
ゲームセンターに行った。
「俺、クレーンゲーム得意なのよ!」と
自信満々に言う貴方を信じてお金を託す。
100円が吸い込まれていき
貴方は得意げに操作している。
必殺技を出すような声量で
「ここだ」と貴方は言った。
ゲームセンター内は喧騒としているのに
貴方の声だけが響いているように聞こえ。
可笑しくて笑ってしまった私は
思わず貴方の肩を叩いてしまい。
少しずれたクレーンが景品から遠ざかり
貴方は私のほうを見てニコっと微笑んだ。
「もしかして、叩いた?」と貴方は
微笑みながらも低い声で言ってくる。
「えへへ」と可愛い子振る。
「君もやってみなよ」と言われ
私も100円を投入してプレイ。
自分的に納得のいく位置で
決定ボタンを押そうと思い
「ここだ」と言ったところ。
さっきの私みたいに貴方も
笑いながら肩を叩いてきた。
ずれた。景品からは遠ざかる。
不満げな表情で貴方を見るが。
あははと笑っている貴方が素敵で
一瞬の出来事にさえ見惚れていた。
景品からずれて遠ざかったが
私と貴方の心は近付いていた。
200円で心が近付けるのなら
何よりもコスパ良いじゃないか。
ゲームセンターを出た。
「何も取れなかったね」と私は言う。
「笑えたし良かった」と貴方が言う。
付き合っていない2人だけの空間。
まるで付き合っているかのような。
その曖昧さが1年前の私には
途轍もなく心地の良いもので
今は取り戻せない幸福だった。
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