2025-12-13
『恋人のよう』
「あ、そういえばさ」と振り返る僕。
そこにはもう、彼女は佇んでいなく。
ただ僕の視界を遮るように
人々が交差するように歩く。
駅構内。
ついさっき、デートが終わった。
「私、あっちだから」と彼女は
僕の進む方向と逆のほうを指す。
「あ、そうなの」と呟いた僕。
「僕こっちだから」と返した。
どこぞの恋愛啓発の動画では
男性が女性を見送れみたいな
意見が飛び交っていたけれど。
僕は「そっちまで見送るよ」とは
言える素直さを持ち合わせてなく。
「じゃ、またね」とだけ言い残し
自分が向かうべき方向に歩き出す。
振り返りざまに「また」と聞こえ
それが彼女の声だとは理解できた。
顔を見て話しているときには
何を話せばいいのか浮かばず
振り返って彼女のことを思う。
「あ、そういえばさ」と勇気を出した僕。
「もう少し時間あったら歩かない?」と。
言おうにも、彼女はそこにいない。
まるで雲が流れていくかのような。
見ているときはゆっくりなのに
目を離せば進みが早くなるよう。
駅構内の喧騒とした感じが
無性に僕自身を苛立たせた。
ポケットに入れていたスマホが
ブブー、と僕の太ももを撫でる。
通知が1件。
「今日は楽しかった。もうこれで私も君も」
「お互いが前を見て歩める人生になれるね」
最後のデートだった、今日は。
つい先日、別れた僕と彼女の。
デート中はまるで付き合っているかのよう。
客観的に見れば彼氏と彼女という形式だが。
別れていた。
駅構内での別れ際、僕はデートが楽しくて
次回があるかのように「またね」と言った。
彼女も「また」と言っていたのだけれど
今、思い返してみると彼女の声ではなく。
近くで別れを惜しんでいたカップルの
女性が「また」と言っていた気もする。
彼女の声を区別できなくなった男、僕。
「ね、楽しかった。元気でね」とだけ
僕は彼女と別れた場所で文字を打った。
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『恋人のよう』
「あ、そういえばさ」と振り返る僕。
そこにはもう、彼女は佇んでいなく。
ただ僕の視界を遮るように
人々が交差するように歩く。
駅構内。
ついさっき、デートが終わった。
「私、あっちだから」と彼女は
僕の進む方向と逆のほうを指す。
「あ、そうなの」と呟いた僕。
「僕こっちだから」と返した。
どこぞの恋愛啓発の動画では
男性が女性を見送れみたいな
意見が飛び交っていたけれど。
僕は「そっちまで見送るよ」とは
言える素直さを持ち合わせてなく。
「じゃ、またね」とだけ言い残し
自分が向かうべき方向に歩き出す。
振り返りざまに「また」と聞こえ
それが彼女の声だとは理解できた。
顔を見て話しているときには
何を話せばいいのか浮かばず
振り返って彼女のことを思う。
「あ、そういえばさ」と勇気を出した僕。
「もう少し時間あったら歩かない?」と。
言おうにも、彼女はそこにいない。
まるで雲が流れていくかのような。
見ているときはゆっくりなのに
目を離せば進みが早くなるよう。
駅構内の喧騒とした感じが
無性に僕自身を苛立たせた。
ポケットに入れていたスマホが
ブブー、と僕の太ももを撫でる。
通知が1件。
「今日は楽しかった。もうこれで私も君も」
「お互いが前を見て歩める人生になれるね」
最後のデートだった、今日は。
つい先日、別れた僕と彼女の。
デート中はまるで付き合っているかのよう。
客観的に見れば彼氏と彼女という形式だが。
別れていた。
駅構内での別れ際、僕はデートが楽しくて
次回があるかのように「またね」と言った。
彼女も「また」と言っていたのだけれど
今、思い返してみると彼女の声ではなく。
近くで別れを惜しんでいたカップルの
女性が「また」と言っていた気もする。
彼女の声を区別できなくなった男、僕。
「ね、楽しかった。元気でね」とだけ
僕は彼女と別れた場所で文字を打った。
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