春の陽が、屋敷の庭をやわらかく包んでいた。
梅の花がほころび、風が花びらを運んでゆく。
その花びらの中に、咲妃の笑い声が響いた。
「晴明さん、見てください! 朱雀が花びらを運んでます!」
咲妃が袖をまくって指さす先で、朱雀がひらりと舞い、花びらをついばむようにして宙へと散らした。
晴明は縁側に腰を下ろしながら、静かにその光景を見つめていた。
「そなたが来てからというもの、庭がやけに賑やかだな。」
「ふふっ、それはきっと、晴明さんが笑ってるからですよ。」
「……笑っているか、我が?」
「はい。前よりもずっと優しい顔です。」
咲妃が微笑むと、晴明は照れ隠しのように視線を逸らし、湯呑を口に運んだ。
咲妃はそんな彼を見て、少し頬を染める。
――この人の隣にいられる。
それだけで、こんなにも心が満たされるんだ。



