あれから――二年の歳月が流れた。
咲妃は二十歳になり、都内の大学に通っている。
専攻は「日本文化史」。あの不思議な出来事をきっかけに、
彼女は過去と歴史に強く惹かれるようになっていた。
大学の図書室でアルバイトをしながら、
静かな時間の中で本に囲まれる日々。
けれど、胸の奥にはまだ消えない“想い”がひっそりと残っていた。
「……晴明さん。」
ふとした瞬間、口をついて出る名前。
思い出すたび、胸の奥がじんと痛む。
その日の午後、外はしとしとと雨が降っていた。
静かな雨音が図書室の窓を叩く。
咲妃は奥の書架で、本の整理をしていた。



