──朝日が差し込む教室。


ノートを開きながら、美月は窓の外に視線を投げた。

友達と笑い合いながら登校してくる煌大の姿。

昔からずっと、目が離せなかった。

小学生の頃から、気づけば好きだった。

中学では、断った相手にしつこく迫られたとき、迷わず自分を庇ってくれた。

その瞬間から――煌大だけは特別だった。

言い寄ってくる男子は多かった。

けれど、煌大のように自然に、まっすぐ守ってくれる人はいなかった。

だからこそ、今も変わらず、ずっと想い続けてきた。

窓の外、彼が笑うたびに胸の奥がきゅっと締めつけられる。

手を伸ばせば届く距離なのに、心だけは遠く感じる。


(どうして、あの頃みたいに笑えないんだろう)


穏やかな朝の光が、逆に切なさを際立たせた。

けれど、今の彼の視線の先にいるのは。

同じバスケ部マネージャーの後輩。


(……負けたくないな)


胸に渦巻く感情を抑え、笑みを浮かべて立ち上がった。

窓の外の青空に、淡い決意をにじませながら。

けれど、本当はわかっていた。

想いだけでは届かないこと。

それでも――諦めることだけは、したくなかった。


「今日も頑張ろ」


小さく呟いて、ノートを閉じる。

自分に言い聞かせるように、胸の奥でそっと息を整えた。





──昼休み、中庭。


ベンチに並んでお弁当を広げるのは、もう何度目だろう。

木陰に落ちる光の粒が、春風に揺れている。

美月先輩と食べるお昼は、特別じゃない。

いつもの時間。

でも、今日はどこか違う空気を感じていた。


「そういえば最近、煌大と仲いいね」


箸を止めた美月先輩の言葉に、胸が跳ねた。


「あ……えっと……そう…ですかね?」


戸惑って視線を逸らす。

ドキドキして答えに迷ってしまう。

指先に汗がにじむのを感じながら、お弁当の卵焼きを見つめた。

美月先輩は私をまっすぐ見つめたまま、柔らかく笑った。


「……気づいたら目で追ってる、とかでしょ。わかるよ、その感じ」


その声は優しいのに、どこか遠くを見ているようだった。

沈黙のあいだに、小鳥の鳴き声と風の音だけが流れていく。

その言葉に、胸が痛む。


(……美月先輩も、結城先輩のことを想ってるんだ)


憧れで、大好きで、尊敬している先輩の気持ちが、痛いほど伝わってくる。

笑顔を見せる美月先輩の横顔を見つめながら、私は何も言えなかった。

胸の奥が、熱くて苦しくて――でも、冷静になっていくのを感じていた。

まっすぐで強いその横顔を、きっと私は、少し羨ましがっていた。

風が二人のあいだを抜けていく。

揺れる髪が、陽の光を受けてきらめいた。

あの人を想う気持ちは、きっと同じなのに。

重なりそうで、決して重ならない――そんな距離を、私は静かに受け止めた。

――