驚いたのは今の高瀬の画像。あの長い前髪はセンター分けになっていて、隠れていた大きな瞳がこっちを見据えているのだ。カメラに慣れているのか、表情は穏やか。
「高瀬くんなんだが変わりましたねぇ。こんなにイケメンってむかし、分からなかったな」
スマホを覗きながら、濱田が感心したように言う。イケメンだったよと心の中で呟きながら俺はなんだかモヤモヤしていた。
高瀬の前髪の下にある素顔を、色んな人が知ったこと。それが自分の中で焦りとも寂しさともとれる感情が渦巻いている。
『芸能界から離れ、学業に勤しみ大学進学を果たした。在学中であるため、芸能界活動は控えめにする予定』と記事には書いてある。どうして復帰する気になったのだろうか。
てっきり大学生活を普通の学生として楽しみ、就職するのだろうと思っていたのに。いやでもそもそも、色々考えたとて虚しいだけだ。いまや連絡をとっていないのだから。
「再ブレイクしそうですね」
濱田の言葉に頷きながらも、俺は自分の気持ちが整理できなかった。
「先生、ここの塾に高瀬颯人くんがいたって本当?」
今日の授業が終わり、教員室へ向かっていると廊下で突然声をかけられてそんなことを聞かれた。俺は思わず持っていた参考書を落としそうになる。
「誰がそんなことを」
目の前の女子生徒は目を輝かせている。
「兄貴の友達が、前ここに通ってたときにいたって言ってたの。でも雰囲気が全然違ってたたみたいであまりみんな気にしてなかったって」
仕方ないなあと思いながら俺は小さく頷いた。
「確かにいたけど、個人情報だからな。拡散しちゃだめだよ」
「しないよ! この前、高瀬くんがインタビュー受けていて塾の先生の話してたから、もしかしてその先生がいるのかなあって」
それを聞いて俺は思わず息を呑んだ。ほらほら、コレと女子生徒がスマホで動画を流し始めた。画面の中の高瀬は椅子に座りインタビューを受けていた。はにかみながら質問に答える彼を見て、芸能人なんだなあとつくづく感じてしまう。
『高瀬さんはしばらく芸能界から遠ざかっておられましたよね』
『実は学生のときに復帰しないかと話をいただいたのですが僕は大学には行きたかったので』
以前からそんな話が出ていたのか。
『なるほど』
『でも成績が芳しくなくて、自信を失ってました。そんな中、テストの結果がなかなか出ない僕に、塾の先生が頑張れって書いた消しゴムをくださって。僕はそのおかげで頑張れたんです』
「この先生誰なのかなあ。雪ノ下先生、知らない?」
女子生徒の声でハッと我にかえる。
「さあ、分からない」
自分の頬が熱い。顔を背けたけれど、もしかしたら気づかれたかもしれない。
家に帰ってパソコンでもう一度、インタビューの動画を見ながら俺はため息をついた。何故なら気がついてしまったからだ。
高瀬が『消しゴムをくれた先生』の話をした時の笑顔が、それまでの笑顔と違うことに。そしてその笑顔を画面越しに見ることの寂しさの意味に。
「高瀬くんなんだが変わりましたねぇ。こんなにイケメンってむかし、分からなかったな」
スマホを覗きながら、濱田が感心したように言う。イケメンだったよと心の中で呟きながら俺はなんだかモヤモヤしていた。
高瀬の前髪の下にある素顔を、色んな人が知ったこと。それが自分の中で焦りとも寂しさともとれる感情が渦巻いている。
『芸能界から離れ、学業に勤しみ大学進学を果たした。在学中であるため、芸能界活動は控えめにする予定』と記事には書いてある。どうして復帰する気になったのだろうか。
てっきり大学生活を普通の学生として楽しみ、就職するのだろうと思っていたのに。いやでもそもそも、色々考えたとて虚しいだけだ。いまや連絡をとっていないのだから。
「再ブレイクしそうですね」
濱田の言葉に頷きながらも、俺は自分の気持ちが整理できなかった。
「先生、ここの塾に高瀬颯人くんがいたって本当?」
今日の授業が終わり、教員室へ向かっていると廊下で突然声をかけられてそんなことを聞かれた。俺は思わず持っていた参考書を落としそうになる。
「誰がそんなことを」
目の前の女子生徒は目を輝かせている。
「兄貴の友達が、前ここに通ってたときにいたって言ってたの。でも雰囲気が全然違ってたたみたいであまりみんな気にしてなかったって」
仕方ないなあと思いながら俺は小さく頷いた。
「確かにいたけど、個人情報だからな。拡散しちゃだめだよ」
「しないよ! この前、高瀬くんがインタビュー受けていて塾の先生の話してたから、もしかしてその先生がいるのかなあって」
それを聞いて俺は思わず息を呑んだ。ほらほら、コレと女子生徒がスマホで動画を流し始めた。画面の中の高瀬は椅子に座りインタビューを受けていた。はにかみながら質問に答える彼を見て、芸能人なんだなあとつくづく感じてしまう。
『高瀬さんはしばらく芸能界から遠ざかっておられましたよね』
『実は学生のときに復帰しないかと話をいただいたのですが僕は大学には行きたかったので』
以前からそんな話が出ていたのか。
『なるほど』
『でも成績が芳しくなくて、自信を失ってました。そんな中、テストの結果がなかなか出ない僕に、塾の先生が頑張れって書いた消しゴムをくださって。僕はそのおかげで頑張れたんです』
「この先生誰なのかなあ。雪ノ下先生、知らない?」
女子生徒の声でハッと我にかえる。
「さあ、分からない」
自分の頬が熱い。顔を背けたけれど、もしかしたら気づかれたかもしれない。
家に帰ってパソコンでもう一度、インタビューの動画を見ながら俺はため息をついた。何故なら気がついてしまったからだ。
高瀬が『消しゴムをくれた先生』の話をした時の笑顔が、それまでの笑顔と違うことに。そしてその笑顔を画面越しに見ることの寂しさの意味に。



