入園するやいなや、高瀬はキョロキョロと園内を見渡す。どうやら事前にアトラクションをチョイスしていたらしい。高瀬が目指したのはこの遊園地の目玉である、六十メートルの落差があるジェットコースター。すでに数人並んでいて『怖いけど、頑張ろうね』なんて励まし合いをしているカップルがいた。まあ、気持ちは分からないでもない。すると高瀬がコソッと聞いてきた。
「先生大丈夫ですか?」
「……なんで」
「眉間に皺がよってます」
 めざとい。そう俺は絶叫系が少し苦手なんだ。なのに、乗るのは高瀬が乗りたがっているんだから、一緒にいってやらなくてはという使命感からきている。
「大丈夫だ。お前こそ泣くなよ」
 そう強がったが、結局ジェットコースターから降りた後、俺は半べそ状態。悲鳴をあげすぎて喉が痛い。対する高瀬は楽しかったらしく、興奮しながらもう一回乗りたいと言っていた。乗るなら一人で行ってくれ……

 そのあとは、高瀬が気を利かせてくれたのか絶叫系のアトラクションではなくゆっくり楽しめそうなものを巡った。
 園内に張り巡らされたレールに自転車みたいなものを使い、2人でゆっくり漕いでいくアトラクションは、地上5メートルという高さ。眺めと風が心地よくて気持ちいい。
「これ、カップル用だろうな」
「雪ノ下先生もデートで遊園地行ったりしたんですか」
「うん、まあ」
 ふぅんと言いながら黙々と漕いでいく高瀬。彼女を作ることもできなかったのだろうか。
「お前ならこれから彼女できるだろ。背も高いし顔だって」
 さらさらの前髪が風に靡くたび、ちらっと覗く彼の横顔。女子にモテそうな、綺麗な顔だ。
「……僕はそういうの、分からないです」
 ポツリと答えた高瀬の表情は少しだけ憂いを帯びていた。

 そのあとランチをしたり、他のアトラクションを楽しんで気がつくと夕方になっていた。次が最後かなと言いながら高瀬が選んだのは観覧車。一番楽しみにしていたのは、これだったようでゴンドラが動き始めると嬉しそうに外を眺めている。夕陽が辺りを染め始めて、高瀬の顔も照らしていた。
「お前、髪切ったらもっと魅力的になるのに」
 俺は手を伸ばして目元を隠している前髪をあげる。至近距離で見る高瀬の顔。驚いた様子だったが、やがて今まで見たことのないくらいの眩しい笑顔を見せた。
「本当ですか。じゃあ切ろうかな」
 高瀬があまりにもジッと見つめるから、何だか恥ずかしくなってきて前髪を戻し、外の夕焼けに視線を逸らせた。それから沈黙が続く。
「雪ノ下先生」
 名前を呼ばれ、再度高瀬を見る。また前髪が邪魔してよく見えない表情。でも何だかいつもと違う様子だ。
「どうした?」
「……」
 高瀬は言葉を何か選んでるのか、少しの間をおいてポツリと答えた。
「……なんでもないです。それより大学行っても、連絡していい?」
 何を言おうとしてたのか、不思議に思ったが俺は追及せずに頷いた。