しばらくして、無事合格したと報告に来る生徒たちがポツポツと現れるようになった。その生徒たちの笑顔がなにより嬉しい。そして合格したということは、お別れだ。世話になったからとプレゼントまで渡してくる子もいて恐縮してしまう。もらった紙袋を机を置いて眺めていたら、背後から名前を呼ばれた。
「雪ノ下先生」
 振り返ると、そこに高瀬がいた。
「久しぶりだな。風邪ひいてないか」
「大丈夫です。それより報告が」
 少しだけ穏やかな雰囲気を醸し出しているのは、受験が済んだからなのだろう。そしてここに来ているということは……
「無事、合格しました」
 その言葉に思わず席を立ちガッツポーズをすると、高瀬が笑う。
「やったな、おめでとう」
 そしてつい頭を撫でてしまい、隣にいた濱田が『雪ノ下先生、同性でもそれセクハラ』と苦笑いする。俺は慌てて手を引っ込めると高瀬は頭を下げた。
「先生のおかげです、ありがとうございました」
 濱田も教科を担当していたから自分にお礼を言われたのかと思ったようでいやいや、と照れくさそうにしていた。それが何だか癪に障る。今のお礼は俺に対してだぞ、なんて心の狭いことを思ったのだ。
 しばらく話をしていると、濱田は他の講師に呼ばれそちらに向かった。すると高瀬がポケットから小さなメモを取り出し俺に渡す。
「僕のIDです。ここで話しずらいと思うので、連絡ください」
「……お、おぉ」
「って。連絡来ない気がするから、IDもらってもいいですか? 遊園地の約束忘れてないですよね」
「覚えてるって」
 意外に推しの強い高瀬。俺は引き出しからペンと付箋をだしてIDを書くとそれを渡した。

 結局、高瀬からメッセージが来て数日後に2人で遊園地に行くことになった。 
 心配していた雨は前日に止んで晴天。時間配分を間違えてかなり早く着いたのに高瀬はもう待ち合わせ場所にしていた正門に立っていた。どれだけ楽しみにしていたんだろうか。
黒い帽子とカーキのボディバック。いつもより少しオシャレ感が出ているが相変わらず表情は見えない。俺は少し時間を置いて近寄り声をかけた。
「待たせたな」
 高瀬はスマホから目を離した。
「いえさっき着いたので」
 すました声に俺は思わず笑ってしまった。着いたのは『さっき』じゃないだろ。
「何がおかしいんですか」
「いや、なんでもないよ。行こう」