ぷは、と高瀬は吹き出す。そして手を離し立ち上がると俺の横に座り、体をすり寄せてきた。
「雪ノ下先生、寂しがり」
「う、うるさい」
「嬉しいです。ねぇ、僕はまだ先生のことあまり知らないし、先生も僕を知らない。これからも一緒にいてお互いを知っていきましょう。だから付き合ってもらえませんか」
肩に顔を乗せ、上目遣いにこちらを見る。このあざとさは計算されてるのか、天性なのか? 俺はとうとう頷き、高瀬の頭に手を置く。するとすりすりと頭を振ってくる。まるで猫のように。
まさか高瀬とこんな仲になるなんて、と嬉しいやら照れ臭いやら。だけど同性と付き合うなんて初めてだし芸能人だし、前途多難なことは明白だ。でも腹を括るしかない。なにせ高瀬は俺の特別なのだから。
気がつくといい時間になっていたので、今日は高瀬を泊めることにした。せっかくだからと夜更かしをしながらゆっくり過ごす。
「先生、ひとつお願いしていい?」
「うん? なに?」
床に転がったままの消しゴムを拾うと、テーブルの上に置く。文字が薄くなっているそれを俺の前に差し出すと高瀬が言った。
「また書いてよ、頑張れって。ずっと持っておきたいんだ」
「……新しいのじゃなくて?」
「これがいい。僕の大切なお守りだから」
それを聞いて俺は思わず高瀬の顔に手を伸ばす。頬に触れしばらく見つめ合い、ゆっくりと顔を近づける。そしてどちらかともなく唇を重ねた。柔らかな感触が甘い、ほんの短いキス。
閉じられていた高瀬の瞼が開き、また見つめ合う。そして二度目のキス。これもまた啄むようなキスだ。そっと離した後、高瀬が俺を抱きしめた。
「先生、ありがとう」
「……もう先生じゃないだろ」
そういうとより一層、力強く抱きしめられる。
「陽介さん大好き」
***
「たかせはやと」のどこか不自然だった笑顔。今は「高瀬颯人」として自然な笑顔がメディアに引っ張りだこだ。一時期はその笑顔を見るのが辛かったことがあったけれど、今は安心して見ることができる。
俺はコーヒーを飲みながら、高瀬が出演しているドラマを見ていた。
「ただいまぁ」
玄関から声がしてトタトタと足音が近づき、リビングに高瀬が入ってくる。
「ドラマ見てくれてんの」
「うん。今いいとこだし」
「って、僕が彼女に振られるところじゃん」
マフラーを取りながら笑う高瀬。この俺にだけ向ける笑顔がそばにある。だから俺はどんなに高瀬がメディアで笑顔を振り撒こうが、不安になることはないのだ。
なんて不思議な縁で、愛おしいのだろう。
「彼女に振られるから、いいとこだろ」
俺もつられて笑うと、高瀬が頬にキスをする。
「間違いないね。陽介さんにとってはいいところだ。ああいい匂いする!」
「早く着替えてこいよ。今日は寒いからビーフシチューだ」
大好物のビーフシチューと聞いて、高瀬はさらに嬉しそうな笑顔を見せた。
【了】
「雪ノ下先生、寂しがり」
「う、うるさい」
「嬉しいです。ねぇ、僕はまだ先生のことあまり知らないし、先生も僕を知らない。これからも一緒にいてお互いを知っていきましょう。だから付き合ってもらえませんか」
肩に顔を乗せ、上目遣いにこちらを見る。このあざとさは計算されてるのか、天性なのか? 俺はとうとう頷き、高瀬の頭に手を置く。するとすりすりと頭を振ってくる。まるで猫のように。
まさか高瀬とこんな仲になるなんて、と嬉しいやら照れ臭いやら。だけど同性と付き合うなんて初めてだし芸能人だし、前途多難なことは明白だ。でも腹を括るしかない。なにせ高瀬は俺の特別なのだから。
気がつくといい時間になっていたので、今日は高瀬を泊めることにした。せっかくだからと夜更かしをしながらゆっくり過ごす。
「先生、ひとつお願いしていい?」
「うん? なに?」
床に転がったままの消しゴムを拾うと、テーブルの上に置く。文字が薄くなっているそれを俺の前に差し出すと高瀬が言った。
「また書いてよ、頑張れって。ずっと持っておきたいんだ」
「……新しいのじゃなくて?」
「これがいい。僕の大切なお守りだから」
それを聞いて俺は思わず高瀬の顔に手を伸ばす。頬に触れしばらく見つめ合い、ゆっくりと顔を近づける。そしてどちらかともなく唇を重ねた。柔らかな感触が甘い、ほんの短いキス。
閉じられていた高瀬の瞼が開き、また見つめ合う。そして二度目のキス。これもまた啄むようなキスだ。そっと離した後、高瀬が俺を抱きしめた。
「先生、ありがとう」
「……もう先生じゃないだろ」
そういうとより一層、力強く抱きしめられる。
「陽介さん大好き」
***
「たかせはやと」のどこか不自然だった笑顔。今は「高瀬颯人」として自然な笑顔がメディアに引っ張りだこだ。一時期はその笑顔を見るのが辛かったことがあったけれど、今は安心して見ることができる。
俺はコーヒーを飲みながら、高瀬が出演しているドラマを見ていた。
「ただいまぁ」
玄関から声がしてトタトタと足音が近づき、リビングに高瀬が入ってくる。
「ドラマ見てくれてんの」
「うん。今いいとこだし」
「って、僕が彼女に振られるところじゃん」
マフラーを取りながら笑う高瀬。この俺にだけ向ける笑顔がそばにある。だから俺はどんなに高瀬がメディアで笑顔を振り撒こうが、不安になることはないのだ。
なんて不思議な縁で、愛おしいのだろう。
「彼女に振られるから、いいとこだろ」
俺もつられて笑うと、高瀬が頬にキスをする。
「間違いないね。陽介さんにとってはいいところだ。ああいい匂いする!」
「早く着替えてこいよ。今日は寒いからビーフシチューだ」
大好物のビーフシチューと聞いて、高瀬はさらに嬉しそうな笑顔を見せた。
【了】



