放課後になり、僕は急いで帰るフリをして、いつもの花壇へと向かった。別に家に帰っても良かったのだが、花への水やりがルーティンになっているということ、そして昨日のこともあり急いで家に帰ると、またお母さんが気を使うかもしれないと考えた結果、いつも通りの時間に帰るのがベストだろうと思い僕は花壇へ足を運んだ。

 「ブランケットはまだ今度買いに行けばいいか。」

 そんなことを呟きながら僕はジョウロで花に水をやる。この時期に咲く花は秋桜《コスモス》だ。秋に咲く桜とはよく考えたものだ。元は当て字らしいが、ピッタリな字であると僕は思う。そもそも僕は桜の絵が彫られた栞を使うほど桜が好きだ。だからと言うわけではないがそのつながりで秋桜も好きな花の一つである。
 学校の花壇であれば、比較的育てやすく長期に渡って咲き誇る花が選ばれるのだと思っていた。実際小学校や中学校の花壇で目にしていたものはマリーゴールドやパンジーやペチュニアのような多頻度で水やりを行ったり、細かな気温管理をする必要のない花が花壇の定番だったと記憶している。そんな中わざわざこんな日当たりの悪い校舎の影になっている花壇に色鮮やかな秋桜を植えているということは、きっとこの上北学園高等学校にいる用務員さんはよほど花が好きなのだろう。

 「そういえば用務員さんって見たことないな…僕が授業中に仕事してるのかな。」

 水やりを終え、いつものベンチに座り込み、僕はスクールバッグから文庫本を取り出そうとしたが、思い出したかのように文庫本ではなくスマホを取り出した。小林くんがLINEにメッセージを送ったと言っていたが、そのことをすっかり忘れて、この時間になってしまった。

 「いけない。友達なんていなかったからLINEの存在すら忘れた。返信しないと…」

 LINEを開くと、お父さんとお母さん。そして小林悠斗《こばやしゆうと》と書かれたアカウントから連絡が入っていた。僕のLINEに家族以外が登録される日が来るとは思っていなかったと思いながら小林くんからのLINEを開く。

 —小林です!よろしく!
 —どこいる?
 —おーい
 —あれ…?
 —学食?
 —奢るって言っただろ?
 —どこいる?
 —図書室?
 —教室戻ってるから、LINE見たら来て!

 小林くんは僕のためにたくさんのLINEを送ってくれたらしい。両親以外から初めて届いたLINEを見て嬉しくなるも、金城くんのあの冷たい視線を思い出した、僕の表情は暗くなる。

 僕なんかが小林くんと仲良くしてはいけない。
 大丈夫。金城くんが幸せになってくれることが、僕の一番の幸せだ。
 自分から手伝うと言ったんだ。道を間違えてはいけない。

 僕はそう自分に言い聞かせる。
 しかし既読をつけてしまった手前、返信しないわけにはいかない。そのため僕は小林くんからのLINEを一番下までスクロールした。そこで僕は」目を見張る文章を見た。

 —久遠の家ってどこ?パンが美味かったから明日買いに行きたい!

 教えるのは構わない。家のパンが美味しいと評価されることは嬉しいし、より多くの人に食べてほしいとも思う。しかしそれは小林くん以外の場合だ。僕がこれ以上小林くんと連絡を取るということは、更に金城くんを怒らせるということだ。だが小林くんに連絡を取らなければ、金城くんの恋の協力をすることができないのも事実。
 僕は今これ以上金城くんを怒らせないために小林くんと連絡を取るのを止めるか、金城くんの恋を成就させるために小林くんと連絡取るかの二択を迫られていた。

 「どうしよう…でも、小林くんは何も知らないわけだし…」

 小林くんは金城くんが好意を寄せているとはおそらく知らない。そんな状況で勝手に距離を置くのは、小林くんに失礼でしかない。僕はそう結論付け、不慣れなLINEを操作し自分の家の住所とマップを小林くんに送った。
 たったこれだけの作業で一日分の疲れがどっと襲い掛かったかのように疲れた。僕は「だあぁ」と情けない声を上げながらベンチの背もたれに全てを預けた。

 どのくらいの時間が経っただろうか。外で球技をやろうものなら球の位置を瞬時に見失いそうになるほどあたりは暗くなっていた。もう大丈夫だろう。そんなことを考え僕は帰路に就く。
 さすがは冬手前といったところだろうか。時間を確認するために起動したスマホの画面には17時の記載がされていた。これが夏場であれば周囲は明るく、部活もまだやっていたことだろう。しかしここまで暗くもなれば学校側も生徒を帰さないわけにはいかない。僕が校門を潜るタイミングでグラウンドを照らしていたライトが消える。あたりは更に暗くなった。

 「…僕も同じくらい暗いかな。」

 そんな皮肉のようなことを自分自身に呟きながら、スマホをスクールバッグに仕舞い込み、両手は腕を組むようにして寒さをしのぎながらゆっくりと家に向かって歩いた。


■ ■ ■ ■ ■


 翌朝僕はいつも通り6時になったことを確認してから、店を開ける。今日もいつも通り開店前から店の前には列ができており、開店と同時に次から次へと店内に入り込んでいく。僕はお客さんの状況やパンの減り具合を見ながら自分の仕事を進めていく。
 しかし今日はいつも通りとはいかない事態が発生した。

 「おはよー久遠、買いに来たぞーって、久遠って毎朝働いてから登校してんの?」

 あの日のようにかけられた声は、金城くんのモノではなく、金城くんの想い人の声であった。

 「お、おはようございます。来てくれたんだ。」
 「昨日LINEで買いに行くって言っただろ?いや、ほんと美味くてさ!これから部活の朝練があるから終わったらソッコー食べるように買いたいなって。
 てか、久遠って実家で働いてるんだな。だから毎日登校するの遅かったのか。」
 「うん。そうなんだ。」
 「大変だなぁ。俺は部活だけでアルバイトとかしたことないから尊敬するわ。
 あ、そうだ。お勧めのパンある?実際に働いている人から選ぶパンなら確実じゃん?」

 正直チャンスだと思った。もしかしたら金城くんはすでに小林くんの食の好みくらい把握しているかもしれないが、仮に知らなかった場合それは金城くんに小林くんの情報を伝えることができるチャンスだと。
 そう考えた僕は接客をしつつ、小林くんの食の好みを聞き出す。

 「小林くんは食べ物何が好きなの?」
 「俺の?んー、そうだな。ハンバーグとかカレーとかが好きかな。お子様ランチってあるだろ?あれに乗ってるものは大抵好きかもな。って、子どもっぽすぎる?これってダサいかな…?」
 「え?全然ダサくないよ。むしろ小林くんも良さが全面に出ててすごくいいと思うよ。
 小林くんの好みに合いそうなものだったら…ウチのパンだとカレーパンとコロッケパンとかどうかな。コロッケは牛肉がゴロゴロ入ってるからちゃんと肉も感じられるよ。」
 「久遠ってやっぱいい奴だよな!
 カレーパンとコロッケパンな、オッケー。それ貰うわ。ありがとう。」

 小林くんはそういうと店内を一周し、カレーパンとコロッケパン。それに加えグラタンパンとバーガー系を2種、更におやつ用かは分からないが、あんドーナツとクロワッサンも取り、トレイをいっぱいにしていく。
 それからお母さんのいるレジに持っていき、会計を済ませると、「久遠!また学校で!」と店中に聞こえるような大声で僕に向かって声をかけ、小林くんは店を後にする。それを聞いていた店内の大人たちは「かわいい」や「青春ね」などと呟いていた。
 8時を回り徐々に客足が途絶え始めたタイミングでレジにいたお母さんが僕に話しかけてきた。

 「ねぇ酵汰。さっき来てた子は友達?」

 その声はどこか嬉しそうにも感じた。きっと僕に友達ができたと勘違いしているのだろう。「友達じゃないよ」と言おうとしたが、その手前で固まってしまった。小林くんとの関係性が友達かどうかなんて僕にはわからなかったからだ。今まで友達を呼べるような関係になった人がいないため、そもそもどこからが友達かなどといった線引がわからないのだ。

 「…僕に友達はいないよ。ごめんねお母さん。」

 そうだ。小林くんは友達じゃない。ただのクラスメイトだ。小林くんは金城くんの好きな人であり、僕は二人を恋仲にするためだけに最近話しているに過ぎない。

 「ごめん、今日は早めに学校行くね。」
 「酵汰…だ、大丈夫なの?」
 「…何が?ごめん。行くね。」
 「パ、パンは持っていかなくていいの?」
 「…ごめん。今日はいいや。」

 謝ってばかりである自覚はある。ただ僕にはこうする以外のコミュニケーションの取り方がわからない。僕に友達がいない理由はこれも要因だろう。わかっている。全部わかってる。

 (初めて両親以外から来たLINEに浮かれてたんだろうな。勘違いしたらだめだよね。)

 僕はいつも通りエプロンを剥ぎ取ると、スクールバッグを手に取りそのまま学校へと向かった。普段より早く出たため久しぶりに歩いて学校へ向かう。しかしその足取りは重く、学校につく頃にはいつも通りギリギリの時間であった。僕はゆっくりと教室の扉を開けた。

 「あ、久遠やっと来た!おはよー、今朝ぶり!」
 「え?小林お前、朝久遠に会ったの?」
 「そ!久遠のパン屋に寄ってきたんだ〜。金城も食べたことあるんだよな?めちゃくちゃ美味くてさ。ほらこれ!カレーパンにコロッケパンに…色々!これは久遠がおすすめしてくれたんだぜ!」
 「は?なに?久遠と仲良くなったの?」

 スクールバッグからパンの入った紙袋を取り出し金城くんに見せる小林くんはすごく嬉しそうにしながら話していたが、そんな小林くんをみて徐々に不機嫌になっていく金城くんのそのセリフにクラス中が若干凍りついた。
 そんな金城くんに戸惑いながらも小林くんは言い返す。

 「…金城、お前なに?俺が久遠と仲良くしたらダメなの?」
 「ちがっ、そうじゃねえよ。てか、お前は知ってるだろ!」

 知ってる?そう言えば昨日も金城くんは小林くんにそんなことを言っていた気がする。もしかして金城くんはすでに小林くんに自分の気持ちを伝えているんだろうか。つまり俺の気持ちを知りながら別の人と仲良くするなっていう嫉妬してるってことか?

 「あぁ、なんだ。最初っから手伝いなんていらなかったんだ…。」

 徐々に視界がぼやけていく。ぼやけたものが頬を伝い地面に流れ落ちる。

 「え、何?どうした?どこか痛いのか?大丈夫か?」

 金城くんのその言葉に僕は初めて自分が泣いていることに気がついた。クラス中の視線が僕に向かう。金城くんはそんな僕を心配してくれたのだろう。席を立って僕に近づいてくる。

 怖い。
 金城くんが近づいてくる。
 何を言われるんだろうか。
 お前は用済みと言われるんだろうか。
 それなら金城くんに言われる前に、自分の口から…
 そのほうがダメージが少なくすむかもしれない。

 「ごめんなさい。小林くんと連絡を取ってしまい申し訳ございませんでした。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」
 「おい!何してる!」

 朝のホームルームのために佐々木先生がタイミングよく教室を訪れた。そんな佐々木先生は僕がいじめられていると勘違いして大声を出したんだろう。教室内を走って僕のもとに駆け寄り、泣きながら謝罪を繰り返す僕をクラス中の視線から隠すように自分の胸に僕を押し付けた。

 「金城、お前か?」

 佐々木先生は金城くんを睨みつけている。状況を客観的に見れば金城くんが僕を泣かせたと勘違いしてもおかしくない。でもそれは間違いで、僕が自分で勝手に泣いていることを早く先生に伝えないといけない。それなのに僕の口は上手く動かない。しかし僕より先に口を開いたのは金城くんだった。

 「はい…たぶん俺が泣かせました。ごめん久遠。泣かせるつもりとかあったわけじゃなくて、」
 「ちが、違います。僕が勝手に泣いてるんです。金城くんは関係ありません。ごめんなさい。全部僕が悪いんです。ごめんなさい。」

 金城くんに迷惑をかけてはいない。
 金城くんを困らせてはいけない。

 「佐々木先生、すみません。本当に金城くんは関係ないんです。勘違いさせてしまい申し訳ございませんでした。外の空気吸ってきてもいいですか?」
 「…一人で平気か?」
 「はい…大丈夫です。」
 「…そうか。今日は帰るか?」
 「…いえ、大丈夫です。外の空気吸ってきます。」
 「わかった。各担当の先生には俺から伝えておくから、落ち着いたら戻ってきなさい。無理そうなら職員室来て俺に一言声かけて。」
 「ありがとうございます…。」

 僕は止め方のわからない涙を必死に手の甲で拭いながら、いつもの花壇に向かうため教室を出る。教室を出る際に「久遠!」と僕を大声で呼ぶ金城くんの声が聞こえたが、佐々木先生が静止する声も聞こえた。佐々木先生が止めに入ってくれたのだろう。

 「家にも学校にもいたくない。あぁなんで好きになってしまったんだろう。」

 僕は花壇のベンチに座り、止まらない涙を抑えながら、何度も大きく深呼吸をする。


■ ■ ■ ■ ■


 初めて金城くんの姿を見たのは、上北学園高等学校の入学式だった。入学式だからといって桜の花びらが舞い散るようなこともなく、至って普通の入学式だったと思う。
 桜が舞い散る代わりというわけではないと思うが、新入生には胸に着ける花のコサージュが配られた。それが桜であった。
 そんな桜のコサージュを見て、一人の新入生が声を上げた。

 「へぇー、桜じゃん!俺、桜に花って書いて桜花《おうか》って名前だからさ、よろしくな!」

 そこには高い身長に黒髪の短髪。黒縁のスクエア型のメガネをかけ、口を大きく開け笑う僕と同じ新入生の姿があった。

 一目惚れだった。

 もともと中学生の頃には自分は同性が好きである自覚はあったが、特別同級生と仲が良かったわけでもなく同年代の友達もいなかった僕は今後誰かを好きになることなんて無いと思っていた。しかしそんな思いは一瞬にして覆ることとなる。
 整った顔に、高い背丈に、大きな笑い声に、そしてその笑顔に。
 僕の世界は一瞬にして色が付いたようだった。

 「桜花…。素敵な名前だ。と、友達になれるかな…?」

 自分の好きな花を使ったその名前にも惚れ、僕は初めて友達が欲しいと思った。
 入学式が終わり、クラス発表の張り紙を見に行く。真っ先に確認しに行ったのは自分の名前ではなく、先ほど一目惚れしたした人の名前。

 「桜花、桜花、桜花…。あ、あった。
 苗字は金城って言うんだ。かっこいいな。この表ってことは一組か。
 僕は…三組かぁ。同じクラスにはなれなかったな。」

 同じクラスになれなかったことに落ち込みつつも、彼のフルネームを知れたことで僕は多少なりとも満足していた。

 「名前だけじゃなくて苗字までもかっこいいな。
 く、クラスは違っても話すことくらいできるよね…」

 僕はそんなことを考えながら高校の一年間を過ごすことになった。しかしクラスが違うだけで話す機会はほとんど無いし、金城くんは人気者で常に誰かが金城くんの近くにいた。話しかけるタイミングなど無かった。
 加えて言えば、話しかけるきっかけすらなく、たまに見かけては目で追いかけるだけの日々が過ぎていった。そして高校二年になり奇跡が起きた。同じクラスになったのだ。
 だがそれでも会話という会話をしたのは、たまたま客として訪れていた時と、その時に食べたいと言っていたカレーパンを渡したときだけだ。
 そして現在に至る。


 「…………か?」
 (…なんだ?何か聞こええる。)
 「…………のか?」
 (あ、僕いつの間にか寝ちゃってたんだ。やばい起きなきゃ…)

 泣きつかれて寝てしまったのだろうか。高校生にしてみっともない。そんなことを思いながら僕は涙で腫れあがった目をこすりながら、何かが聞こえる方向を見る。ベンチの真横から聞こえるその声は同じベンチに座りながら僕に声をかけているようであった。

 「え?」

 僕が目を開けて最初に出てきた言葉はそれだった。僕の目には今金城くんが映っている。なぜ彼がここにいるのか分からないし、なぜ彼が僕に声をかけているのか状況を理解できずにいると、先に口を開いたのは金城くんの方だった。

 「わりぃ、寝てたよな。起こしちゃったか?」
 「え?なんで…いるの?」
 「た、たぶん俺のせいで泣いただろ?俺が久遠を泣かせたんだよな?まずはそれを謝りたくて。ほんとにごめん。」
 「ち、ちがうよ。僕が全部悪いんだ。本当にごめんなさい。これ以上小林くんと連絡取らないので、許してください。」
 「…許す?」

 許すという言葉にハテナがついているのが分かる。きっと小林くんと連絡を取ったことは許されるような行動では無かったのだろう。だから疑問形で聞き返すように僕に言ってきたのだ。
 もうこうなれば謝り続けるしかない。

 「本当にごめんなさい。
 あ、そうだ。も、もう知ってるかもしれないけど小林くんはお子様ランチに乗ってるようなご飯が好きなんだって。ハンバーグとかカレーとか。
 だ、だから小林くんとデートに行くときのご飯はそういうところがいいかもって…」
 「それ、いつ聞いたの?」

 下げていた頭を徐々に上げると、鋭い目つきで僕を睨みつけるような金城くんがそこにはいた。

 「け、今朝です。ウチのパン屋に小林くんが来ておすすめを尋ねられたから、そのときに…」
 「なんで小林が久遠のパン屋知ってんの?」
 「き、昨日LINEでウチのパン屋の住所聞かれて…それで教えて…」
 「…そう。」

 完全に怒っている。これ以上金城くんに迷惑をかけないために、困らせないために、怒らせないためにしてきたことはすべて無意味だったと、僕の行動全てが悪だったと気づかされたような感覚に陥った。金城くんの怒りに踏みつぶされそうだ。
 そんな状況の中、またも先に口を開いたのは金城くんであった。

 「久遠はさ、なんで小林にLINE教えてんの?」
 「ごめんなさい…」
 「いや、そうじゃなくて…。あのさ、久遠は俺に協力してくれるって言ったよな?」
 「言いました…。二人の邪魔をするつもりは一切なくて、二人が結ばれるように協力したくて…。」
 「だよな。なら俺ともLINE交換してよ。」

 金城くんの口から聞こえてきた言葉を瞬時に理解することはできなかった。それは泣いて身体が疲弊していたことや、怒られて身体が委縮していたからだと思う。いや、それを除いても金城くんからの提案を瞬時に理解することはできなかっただろう。

 「ど、どうして?」
 「…協力してくれるんだろ?なら連絡取る手段があってもいいだろ?早くスマホ出して」

 金城くんはそういうと、自身のスマホをポケットから取り出し慣れた手つきで画面にQRコードを映し出す。僕は動揺しつつもスクールバッグからスマホを取り出し、小刻みに震える手で必死にスマホを操作し、金城くんとLINEを交換した。
 金城くんはすごく満足そうな表情を浮かべ、僕を見て言った。

 「よし!じゃあ次!」
 「え?次?」
 「久遠、俺とデートしよっか。」