エマの家の朝は、いつだって柔らかい。薄いカーテン越しに差し込む光が部屋を金色に染める。その真ん中で黒色の猫、リオが小さくあくびをした。
「リオ、おはよう。」
寝ぼけた声でエマが顔を覗かせる。彼女はまだ幼さの残る瞳で優しい笑みを浮かべていた。リオは「にゃ」っと喉を鳴らし、彼女のベッドに飛び乗る。エマは嬉しそうにリオの頭を撫でた。この優しさが、穏やかさがリオの胸の奥にある灰色の塊をゆっくりと溶かしいていく。かつての自分は、戦い、血、裏切り、そして灰色の町、その中でしか呼吸出来なかった。けれど今は違う。エマはリオの首元に顔を埋め、静かに笑った。
「リオと一緒の朝、好きだなぁ。」
もう何度目になるかわからないその言葉が、リオの胸のどこかに静かに染み込んだ。
昼下がり、小さな庭。エマは花に水をやり、リオはその足元をうろうろとする。エマはそんなリオを見て微笑んだ。
「リオ、せっかくだから一緒に散歩行こ?」
リオは尻尾をピンと立てて、トコトコとエマの後ろを歩いた。外の空気は冷たく透き通ってる。リオはふと立ち止まり、耳をぴくりと動かした。微かな魔力のざわめきを小さな体にひしひしと感じる。弱く、微かで、けれど確かにそこにある闇。あの時と同じ気配だ。リオは周囲を警戒し、毛を逆立てた。
「どうしたの?」
エマが振り返る。その顔を見た瞬間に、リオの緊張は急に解けた。エマを怖がらせてはいけないと、リオはエマの足元に戻りころんと寝転がる。その姿を見たエマはくすっと笑った。
「もう、変なの。」
その笑顔が愛おしくて、リオは目を細めた。
その夜。エマはベットに腰をかけ絵本を開く。
「今日はね、『月の魔法と黒猫の物語』だよ。この黒猫さん、なんかリオに似てるんだよ。」
リオは彼女の膝に乗り、丸くなった。絵本を読むための明かりが、二つのかげを壁に照らす。エマの声は静かで、優しく、まるで子守唄のように心に響いた。リオは心の底から思った。こんな日々がずっと続けばいい、と。その瞬間、また胸の奥がざわめいた。この日常はまた壊れてしまうのか。そんな予感を打ち消すように、エマはリオをそっと抱きしめた。
「大好きだよ、リオ。」
リオは喉を鳴らしてそれに応えた。その温かさは、リオの罪を少しずつ、ほんの少しずつ溶かしていった。
しかし数時間後。エマは咳をし、胸を押さえ、苦しそうにうずくまっていた。
「……なんだろ、これ。」
違和感は静かに迫る影の始りだった。
「リオ、おはよう。」
寝ぼけた声でエマが顔を覗かせる。彼女はまだ幼さの残る瞳で優しい笑みを浮かべていた。リオは「にゃ」っと喉を鳴らし、彼女のベッドに飛び乗る。エマは嬉しそうにリオの頭を撫でた。この優しさが、穏やかさがリオの胸の奥にある灰色の塊をゆっくりと溶かしいていく。かつての自分は、戦い、血、裏切り、そして灰色の町、その中でしか呼吸出来なかった。けれど今は違う。エマはリオの首元に顔を埋め、静かに笑った。
「リオと一緒の朝、好きだなぁ。」
もう何度目になるかわからないその言葉が、リオの胸のどこかに静かに染み込んだ。
昼下がり、小さな庭。エマは花に水をやり、リオはその足元をうろうろとする。エマはそんなリオを見て微笑んだ。
「リオ、せっかくだから一緒に散歩行こ?」
リオは尻尾をピンと立てて、トコトコとエマの後ろを歩いた。外の空気は冷たく透き通ってる。リオはふと立ち止まり、耳をぴくりと動かした。微かな魔力のざわめきを小さな体にひしひしと感じる。弱く、微かで、けれど確かにそこにある闇。あの時と同じ気配だ。リオは周囲を警戒し、毛を逆立てた。
「どうしたの?」
エマが振り返る。その顔を見た瞬間に、リオの緊張は急に解けた。エマを怖がらせてはいけないと、リオはエマの足元に戻りころんと寝転がる。その姿を見たエマはくすっと笑った。
「もう、変なの。」
その笑顔が愛おしくて、リオは目を細めた。
その夜。エマはベットに腰をかけ絵本を開く。
「今日はね、『月の魔法と黒猫の物語』だよ。この黒猫さん、なんかリオに似てるんだよ。」
リオは彼女の膝に乗り、丸くなった。絵本を読むための明かりが、二つのかげを壁に照らす。エマの声は静かで、優しく、まるで子守唄のように心に響いた。リオは心の底から思った。こんな日々がずっと続けばいい、と。その瞬間、また胸の奥がざわめいた。この日常はまた壊れてしまうのか。そんな予感を打ち消すように、エマはリオをそっと抱きしめた。
「大好きだよ、リオ。」
リオは喉を鳴らしてそれに応えた。その温かさは、リオの罪を少しずつ、ほんの少しずつ溶かしていった。
しかし数時間後。エマは咳をし、胸を押さえ、苦しそうにうずくまっていた。
「……なんだろ、これ。」
違和感は静かに迫る影の始りだった。



