第一章 野良猫、再始動。

太陽がまぶしい。
空気がうまい。
……それにしてもおなかがへった。

私は、転生したての三毛猫・リンネ。
気がついたら、草むらの中にいた。
どうやらまた「野良スタート」らしい。
神様、次はもうちょっとイージーモードにしてくれません?

(前世のポイントとか、引き継げないのかな)

とにかく私は、
“あの子”――ミサキを探していた。
でも、世界は広く、私の足は短い。
おまけにカラスはやたらと絡んでくるし、
ゴミの日はトラウマだ。

「こらっ! そこ漁っちゃダメ!」

ビクッ。
振り向くと、エプロン姿の主婦が立っていた。
……違う。ミサキじゃない。

(でも、煮干しの匂いがする!)

私は思わず足元にスリスリ。
作戦名「可愛がってくれそうな人に全力媚びる作戦」発動。

「もぉ、しょうがない子ね……」
やった! ミルクゲット!

野良のくせに、ちゃっかり幸せ。
でも夜になると、
心の奥が少しだけ寒くなる。

(あの子、今どこにいるのかな……)




次の日。
私は町を歩いていた。
雨上がりの道路に、自転車のベルの音が響く。

チリン――。

(……ん?)

胸の奥がぎゅっと鳴った。
懐かしい響き。
まるで「おいで」と呼ばれているみたい。

その音を追いかけて曲がり角を抜けると――

「危ないっ!」

視界いっぱいに、傘の柄。
ドサッと何かがぶつかって、私は転がった。

「……え、猫!? ごめんっ、大丈夫!?」

見上げると、そこに――
泣きそうな顔で私を覗きこむ、ひとりの女性。

髪をひとつに結び、優しい目をした人。

私は息を呑んだ。
その声。
その匂い。

間違いない――ミサキだ。




> 世界は広いのに、
会うべき人には、ちゃんとまた会える。



――チリン。
自転車のベルが、再び鳴った。