部屋へと着き、部屋の中へと入った私は荷物をベット近くにある机に置いてから少女に向き直り口を開く。

「えっと、まず自己紹介するわね。私はカトレア・リーゼ。アディラーゼ王国出身よ」
「カトリア・リーゼ…… って、アディラーゼ王国の最強の聖女って言われている、あのカトリア・リーゼさんですか!?」

 どうやら私のことを知っているらしい。
 目の前の少女は驚いた顔をしながら、私の顔をまじまじと見つめてくる。

「ええ、私のこと知っているのね」
「はい! 勿論知ってますよ。あ、私はシエナ・アメリアと言います。エルドアナ国の第一王女です」

 そう言い柔らかな笑みを浮かべた彼女(シエナ)
 私はそんな彼女が放った第一王女という言葉に思わず聞き返してしまう。

「え……?」
「って言っても私の国は亡国と化してしまったんですけどね……」
「亡国と化してしまったってどういうこと?」

 私がそう問い掛ければ、シエナは悲しげな顔をしながら話し始めた。

「エルドアナ国で1週間前、クーデターが起こったんです。私は側近のお陰で何とか国外へ逃亡することができたんですが…… 陛下は勿論、お母様やお兄様。そして私の大切な騎士達は皆、殺されて死んでしまった」

 エルドアナ国。は西に位置する国である。
 鉱物資源が豊富な国として知られている国でもあったような気がする。

「そうなのね……」
「はい、あの、この船でカトレアさんと出会ったのも何かの縁だと思うんです。だから、その…… 私の護衛になってくれませんか?」
「護衛、ですか……?」
「はい、私の護衛であった者は全員、私を守り命を落としてしまいましたので。ごめんなさい、いきなりこんなことを言って。けれど、一人では色々と不安なのです……」

 シエナは一国の王女様だ。
 もしかしたらこれから先の旅の中で、彼女の存在その物が何かの役に立つことだってあるかもしれない。

 デメリットも多少はあるが、メリットの方が大きい。カトレアは少し考えた後、目に前にいるシエナを見て返事を返す為に声にする。

「いいわよ。シエナ、貴方の護衛になるわ」
「本当ですか!?」
「ええ、これからよろしくね、シエナ」
「はい! こちらこそよろしくお願いします!」

 こうして私はエルドアナ国の第一王女シエナ・アメリアの護衛となった。

⭐︎°⭐︎°⭐︎°

 その日の夜、私とシエナはお互いのことを知る為に今に至るまでにあったことを話した。

「婚約者から婚約破棄されたですか…… それも婚約破棄してまで王子が側にいたいと思ったのは実の妹。何か漫画みたいですね」
「ええ、確かに漫画みたいな展開よね。けど、私、これでよかったのだと思っているの」
「どうしてですか?」

 シエナはわからない。といったように首を傾げて私に聞き返す。
 私はそんなシエナを見てから、穏やかな声色で自分の今の気持ちを言葉にする。

「もし私が婚約破棄をされていなかったら、私はアディラーゼ王国から出るなんてことはきっとしなかった。ずっとあの国で聖女としての勤めを果たしていたと思うわ」

 そう、婚約破棄をされたから私は自国から外に出るという大胆な行動が出来たのだ。
 婚約破棄をされていなかったら私はきっと、今もあの国で聖女としての勤めを果たしていた。

「愛していた人から婚約破棄されたお陰で私は自由の身になれたのよ」
「強いんですね、カトレアさんは……」

 そう言ったシエナは一瞬を曇らせるが、すぐに穏やかな顔つきになる。
 私はそんなシエナを見て思う。
 私の話しを聞いて彼女はどう思ったのだろうかと。

「強くなんてないわ。私は弱い人間よ…… それに私からしたら貴方の方が強い人間に思えるわ」
「そんなことないです! カトレアさんは強いです。婚約破棄をされて、妹さんのことを選んだ王子に暴言を吐かず、妹さんを責めもせず、幸せになって下さい。なんて、私が同じ境遇に置かれたら、カトレアさんのように受け入れられません!」

 シエナの熱弁にカトレアは苦笑いする。
 いつか、私にも大切に思って愛してくれる人ができるだろうか。

「私も受け入れたくはなかったのだけれど。何故か納得いってしまったの。愛されるのはやっぱり妹のような可愛くて守ってあげたくなるような子だって……」
「まあ、そういう人の方が男受けはいいかもしれませんが、私は嫌いです。そういう女の人」

 シエナは強い口調でそう言い、カトレアの方に体を向けて、両手でカトレアの手を優しく包み込む。

「シエナ……?」
「大丈夫です。私はこれからずっとカトレアさん、貴方の側にいますから!」
「あら、それはそれで困るわね!」
「え、困るんですか!?」
「ふふ、困らないわよ。ありがとう」

 これから彼女(シエナ)と歩んでいく旅路はどんな物になるのだろう。
 きっと彼女(シエナ)と過ごす日々は楽しい物になるに違いない。と思いながらカトレアはシエナの暖かな手の温もりを感じながら優しい笑みを溢した。