舞踏会が行われている会場を抜け出して、徒歩で王都にある家へと帰って来た私は家を出る為の準備を始めた。
 荷物を鞄に詰めて、両親とアリス宛の手紙を書き終えた頃にはもう9時を回っていた。

「あら、もうこんな時間? 手紙はリビングの机の上に置いてっと。行きましょう」

 一人そう呟いた私は荷物が入った鞄を手に持ち、生まれ育った家を出て、月明かりと街灯が照らす夜道を歩き始めた。


 夜の12時過ぎ頃、アリスと父親(ロヴィン)母親(エリシア)の三人は馬車で家へと帰宅する。
 
「もう、あの娘ってば舞踏会を途中で抜け出すなんて、何を考えているのかしら!」
「まぁまぁ、エリシア、落ち着いてくれ」
「お父様、お母様、お姉様は悪くないわ。悪いのは私なのよ」
「アリス、貴方は何も悪くないわ。デュース王子殿下はあの娘よりも貴方を選んだ。ただそれだけなのだから」

 アリスと両親はそんな会話をしながら馬車を降りて家の中へと入る。両親は先に帰ったであろうカトレアを叱る為に玄関からカトレアを呼ぶが。

「カトレアー! ちょっと話しがあるから来てちょうだい!」

 母親(エリシア)のカトレアを呼ぶ声に何の返事もなく、父親(ロヴィン)は顔を顰める。

「返事がないな。おーい、カトレア、いるのか? いるなら返事をしてくれ」

 父親(ロヴィン)の声にも返事はなく、アリスは不安そうに両親を見る。

「寝ているんじゃないかしら。とりあえずリビングに行きましょう」
「そうね、」
「ああ、ん? カトレアの靴がないぞ!?」

 お姉様が普段履いている靴が玄関にないことに気付いたお父様の言葉に私とお母様は慌てて靴を脱いで、リビングへと向かった。

「カトレア、いないわ……」
「お母様、机の上に何か置いてあるわ!」

 アリスは机の上に置いてあるカトレアがアリスと両親宛てに書き残した手紙を見つけて、手に取る。

「お母様、これ、お姉様からの手紙だわ」
「そうみたいね」
「ええ、こっちの青い封筒の方がお母様とお父様宛てで、紫の封筒の方が私宛てみたい」

 アリスは隣に立つエリシアに青い封筒に入ったカトレアからの置き手紙を手渡す。
 アリスから青い封筒を受け取ったエリシアは手紙を手に持ち、まだ玄関にいるであろうロヴィンの元へと行く為、リビングから出て行く。
 
「お姉様は私を恨んでいるのかしら……」

 リビングに残されたアリスは紫の封筒を見つめながら静かに呟く。数分後、アリスは決心したように封を開けて中にあった2通の手紙を読み始めたのであった。

⭐︎°⭐︎°⭐︎°

その頃、カトレアは王都を通り過ぎ、アディラーゼ王国とラバディース国の国境の間にある森林の中で夜を越す為の準備をしていた。

「まずは、火を起こしましょうか」

 夜の森は王都の街よりも少し暗く、何か出るかもしれないという怖さがあったが、幸い今日は月が出ている為、月の明かりのお陰でそこまでの暗さではなかった。

「やっぱり焚き火があると野宿感あるわね」

 カトレアは赤く揺らめく焚き火を見つめながら独り言のように呟く。
 これからは当分一人だ。アディラーゼ王国から出たことないカトレアにとって外の世界は未知である為、少しばかりの不安もあったが、不安な気持ちを上回るくらいワクワクしていた。

「これから長い旅になりそうね」

 穏やかな声色で呟いたカトレアの声は夜の静かな空気に溶け込むように消えていった。