海上都市【アクア】の市場から少しだけ離れた場所。
上り坂を登った高台に位置するコレットの家へとやって来た私とシエナはコレットさんに招き入れられて家の中へとお邪魔していた。
「アップルティーとレモンティー、お茶と水があるのだけど、どれがいいですか?」
コレットさんはリビングに入って私とシエナをソファへと座ってと促すなり、冷蔵庫の前へと歩み寄って私とシエナにそう問い掛けてきた。
「私はアップルティーでお願いしていいかしら?」
「じゃあ、私はレモンティーでお願いします」
私とシエナの言葉にコレットさん頷き返し、冷蔵庫から水とアップルティーとレモンティーの粉が入った袋を取り出す。
「シエナ様がアップルティーで、カトレア様がレモンティーですね」
コレットさんはそう言い私達に出す飲み物を作り始めた。
数十分程が経ち、コレットさんは私とシエナの前にあるテーブルにアップルティーとレモンティーが入っている白いティーカップをそっと置いた。
そして自身が飲むであろうお茶が入った白いティーカップを机の上に置いて、向かいの木製で作られた椅子に腰を下ろしてから、私とシエナを見て口を開く。
「改めてシエナ王女、カトレア様、来ていただいてありがとうございます」
コレットさんはそう言い私とシエナを見て微笑んだ。
「まさか、コレットと再会するなんて思ってもみなかったわ」
「私もですよ。ずっとシエナ王女殿下、貴方の安否を心配していたんです……」
「そうだったのね。コレット、貴方はあの日、どうやって逃げ延びたの……?」
私の隣に座るシエナがコレットにそう問えば、私達の目の前にいるコレットは哀しみを帯びた表情で、過去を思い返すように語り始めた。
「あのクーデターが起きた日、私はシエナ王女殿下の部屋の片付けを担当する日だったので、シエナ王女殿下の自室に向かっていたんです……」
コレットさんは穏やかな声色でそう言った。だが、その声には何処か悲しみがにじんでいた。
コレットさんは一呼吸し、話を続ける。
「シエナ王女殿下の自室の前に着いた時、少し遠くから悲鳴が聞こえたんです。その後、すぐ、外から爆発音が聞こえて、私はすぐ、窓から外を見て何が起こったのか確認したんです。そしたら……」
コレットさんはそこまで言うと、唇を噛みしめ、震える声で続きを絞り出した。
「……城下が炎に包まれていたんです。兵士達が城に火を放ち、王城に侵入してくる反乱者達に剣を振るっていました。侵入者達はそんな兵士達に剣を振い、突き刺し、切りつけながら、王城に侵入してきたのです……」
コレットさんは悲痛そうな顔でそう言い終わると少し口をつぐんでから再び話し始めた。
「そんな光景を見た私は、恐怖で足が震えました」
そう言った彼女は両手を強く握りしめる。
「それでも他の侍女に伝えなければと考えたんです。でも……」
言葉が途切れ、コレットさんの視線が揺れた。
「結局、自分の安全を優先して……西側の階段を降り、裏門から外へと逃げ延びました」
そう言い終わると、コレットさんの肩がわずかに震えた。
罪悪感に押し潰されそうな眼差しで、自らの弱さを悔いるように顔を歪める。
「コレット、思い出して話すには辛いことなのに、最後まで話してくれてありがとう。貴方が無事で本当によかったわ」
「シエナ王女殿下……」
コレットはシエナの言葉に少し泣きそうになりながらもシエナを見つめて頷き返した。
私はそんなコレットさんとシエナを見ながら、自分のことのように二人がこうして無事、再会できて本当によかったなと自分のことように嬉しく思った。
空が茜色に染まり始めた頃、私とシエナはコレットさんの家からお暇することにした。
「シエナ王女殿下、カトレアさん、また会いに来てくださいね。いつでも歓迎しますから」
「ええ、勿論、また会いに行くわ。カトレアさんも一緒に連れて」
私はシエナの言葉に頷き返すと、家の玄関の前に立っている目の前の彼女は嬉しそうに私とシエナを見て笑みをこぼした。
「はい! 待ってますね」
コレットさんは柔らかい声でそう言い、私とシエナはそんなコレットさんの言葉に頷く。
そして、私とシエナはコレットさんに見送られて、コレットさんの家を後にした。


