ディアーヌ帝国を出てから数週間後。
私とシエナは海上の都市【アクア】へと辿り着いた。
「此処が海上都市、アクア……!」
「綺麗なところね」
波間に揺れる浮き桟橋を渡り切ると、私とシエナを迎えたのは陽光を受けてきらめく海上都市【アクア】の風景だった。
少し遠くに見える白いガラスて出来た塔の表面はまるで水晶のように透きとおり、立ち並ぶ建物は全て海面にせり出すように築かれていた。
また色とりどりの民家はお洒落な外装でデザインされている。
そして街路は石畳ではなく透明な板で造られている為か歩くたびに、足元の下を泳ぐ魚影や、ゆらめく海藻がはっきりと見えた。
「とりあえず、物資調達の為に市場に行きましょうか?」
「はい! そうですね」
私はカトレアと共に都市の中央にある市場を目指して歩き出した。
都市の中心にある市場に辿り着くと、そこでは旅人や商人たちが集まり、海上都市特有の市が開かれていた。
香辛料を積んだ船が並び、遠く異国から運ばれてきた宝石や香油。そして色さまざまな食をそそる食べ物が陽に照らされ、潮風に香りを漂わせている。
「カトレアさん、食料から調達しますか?」
「そうね、そうしましょうか」
両道に立ち並ぶ様々な出店を横目に見て、長持ちしそうな食料を選定しながらシエナと共に市場を歩いていると、前から歩いてきた茶髪の女性がシエナにぶつかってきた。
「痛っ……!」
私の隣を歩いていたらシエナにぶつかってきた茶髪の女性はシエナの声に気付き、立ち止まってシエナを見て申し訳なさそうな顔を向けてくる。
「すいません……! 大丈夫ですか……?」
「あ、はい! 大丈夫です」
シエナが茶髪の女性にそう返答するなり、茶髪の女性は目を見開き、何故か驚いた顔をしていた。
「もしかしてシエナ王女殿下ですか……? 人違いだったら大変申し訳ございません」
「え……?」
亡国からかなり離れた場所にあるこの海上都市で、自分のことを知る人物はいない。
そう思っていたであろうシエナは目の前にいる茶髪の女性が放った「シエナ王女殿下ですか……?」という言葉に動揺していた。
「どうしてそう思ったのですか……?」
「エルドアナ国のシエナ王女殿下と顔が瓜二つだったもので。昔、シエナ王女殿下に侍女として仕えていたんです」
シエナ王女殿下に仕えていた侍女と言う言葉にシエナは目を見開き驚愕しながら、茶髪の女性をじーと見つめてから数秒後、シエナは何かを思い出したかのように口を開く。
「もしかして…… コレット?」
「私の名前、知ってるってことはやっぱりシエナ王女殿下なのですね……!」
再会を喜び合うシエナと茶髪の女性を見ていると、茶髪の女性が私を見てきた。
「あの、シエナ王女、こちらの方は?」
「カトレア・リーゼ様です。アディラーゼ王国の聖女様ですよ!」
シエナの紹介を受けて、私はシエナの侍女であるコレットという名前の茶髪の女性に優しい笑みを浮かべた。
「カトレア・リーゼ様…… って、あの最強聖女様じゃないですか!」
「最強聖女だなんて、大袈裟すぎますけれど、はい、カトレア・リーゼと申します」
どうやら私は外の世界でそこそこ名の知れた存在であるようだ。
「初めまして、私はシエナ王女殿下の元侍女のコレットと申します。あの…… シエナ王女とカトレア様がこの後、時間があって大丈夫であれば、家に来ませんか?」
「私は是非、行きたいわ! あ、でも、カトレアさん次第かもしれないです……」
侍女の前であるからなのか、シエナは敬語とタメを混ぜながら、侍女であるコレットにそう言ってから、伺うように私の方を見た。
「食料や他の物の調達は夜か明日辺りでもできるから、私は構わないわよ」
「本当ですか……! ありがとうございます。カトレアさん」
シエナは弾んだ声でそう言い、とても嬉しそうに笑った。
「じゃあ、行きましょうか?」
コレットはそんなシエナと私を見て優しい笑みを浮かべてから、家へと案内する為に私とシエナの前を歩き始めた。
私とシエナもそんな彼女の後ろについて行くように歩き出す。
穏やかな空気に満ちている海上都市【アクア】の市場にいる商人や人々の賑やな声が耳に届く中、私は嬉しそうに隣を歩くシエナを横目に見て自然と笑みが溢れた。


