「佳都くんはこの部屋を自由に使ってくれていいから」
僕の住んでいたアパートよりもずっと広い部屋をあてがわれて驚いた。
けれど、どうやらこの家の中でこの部屋が一番小さいらしい。
カルチャーショックに驚きながらも、とりあえず荷物を部屋の中央に置いた。
「そういえば布団がないな」
確かに一人暮らしだと自分用以外の布団なんて揃えないな。
そもそもこんな高層マンションじゃ布団干したりするのも大変そうだ。
「あの、僕はソファーでもどこでも寝られるので大丈夫ですよ」
「いや、うちのソファーは少し柔らかすぎて寝るのにはあんまり適してないんだ。よかったら一緒に寝ないか?」
「えっ?」
一瞬聞き間違いかと思った。
一緒に寝る?
翔太の家に泊まりに行った時は同じ部屋で寝たけれど、布団はもちろん別々だった。
でも、直己さんが言ってるのって同じ布団ってことだよね?
それって普通なのかな?
「私はキングサイズのベッドを置いてるんだ。佳都くんくらい華奢な子なら余裕で一緒に寝られるよ」
「でも……それだと直己さんが眠れないんじゃ?」
一人で寝るのにキングサイズを置いているのは広々としたベッドでゆったりと眠りたいからに違いない。
そんな場所に僕が入り込んだら直己さんの睡眠を妨げてしまいそうだ。
「大丈夫だよ。私は実家でずっと犬を飼っていたんだ。知らない間にしょっちゅう私のベッドに潜り込んでくることもあってね、そのせいで隣に何がいても気にならないから平気だよ」
えっと……それってどう言ったらいいんだろう。
僕はペットと同じっていうことなんだろうか?
でも、直己さんがそう言ってくれてるなら、別に気にすることはないのかもしれない。
「あの、じゃ、じゃあ……それで」
「ああ。そうしよう」
なぜか直己さんはご機嫌になって、ベッドの準備をしにいくと言って自室に入っていった。
きっと久しぶりにペットみたいなのと一緒に寝られると喜んでいるのかもしれない。
意外と直己さんって可愛いところがあるのかもな。
そんなことを思いながら、僕はキッチンに向かった。
「買いすぎたかなと思ったけど、いろんな食材買っておいて正解だったな」
そんなことを呟きながら、明日の朝食の下拵えをしていると
「いい匂いがするな」
と声が聞こえた。
「明日の朝食用に出汁をとっておこうと思って」
「じゃあ明日の朝食は和食だな。ああ、楽しみだな」
「はい。楽しみにしててください」
僕の料理を楽しみにしてくれるのが嬉しい。笑顔で返すと、直己さんはなぜか急に黙り込んだ。
「直己さん? どうかしましたか?」
「あ、いや、なんでもない。風呂は好きに使ってくれていいから」
「お風呂なら直己さん、お先にどうぞ」
「いや、佳都くん先に使うといい。私は少し仕事が残っているから」
そう言われて仕事の邪魔をするわけにもいかず、僕は先にお風呂を使わせてもらうことにした。
脱衣所で服を脱ぎ、ガラガラと引き戸を開ける。
すると、僕のアパートとは比べ物にならないほど広いお風呂場が現れた。
「うわぁーっ、ひろっ!」
思いっきり足を伸ばしてもまだ余るほど大きな浴槽がある。
洗い場も広い。本当にすごいな。
「シャンプーとボディソープ、勝手に使っちゃっていいかな?」
せっかく家に戻ったのに、それらを持ってくるのを忘れてしまっていた。
でも、持ってきたとしてもこの豪華なお風呂場には置くにはあまりにも不釣り合いだったかもしれない。
「すみません、今日だけお借りします」
誰にも聞こえないだろうけど、一応そう断りを入れてからシャンプーボトルをプッシュした。
ふわりと漂ってくるその匂いに一瞬あれ? と思ってしまったのは、さっき直己さんに肩を抱かれた時に香ってきた匂いだったからだ。
そっか。
このシャンプー使ってるんだもんね。
直己さんとお揃いかぁ……
そう思った瞬間、その広い浴槽に直己さんが入っている姿が頭をよぎってドキッとしてしまう。
何変なこと考えてるんだ。直己さんに申し訳ない。
パンパンと頬を叩いて、余計なことを考えないように急いで髪と身体を洗った。
浴槽に浸かりながら、七海ちゃんのことを思い出す。
そういえば七海ちゃんに連絡しとかないと。
僕がお兄さんに気に入ってもらえてるか心配してくれているかもしれない。
それでもこの気持ちいいお風呂からすぐに出る気にはなれず、ホカホカになるまで温まってからお風呂を出た。
脱衣所に出ると、心地よい温度に身体がふわっと浮かんでしまいそうになる。
身体を置いてあったフワッフワのバスタオルで綺麗に拭く。そして、こんな綺麗な脱衣所には不釣り合いかもしれない寝巻きに着替えた。脱衣所に置いてあったドライヤーを借りて髪を乾かしてからリビングに向かう。
そこで直己さんがパソコンを広げてカタカタと文字を打っているのが見えた。
真剣な顔つきがなんともカッコいいな
思わず足が止まり、その姿を見ているとふっと直己さんの視線がこっちに向いた。
「佳都くん、出てき――っくっ――! その格好……」
急に大きな手で鼻を押さえながら僕を見ている。
やっぱりおかしかったかな……?
「すみません、これ寝巻きなんですけど……やっぱり変でしたか?」
「い、いや……よく似合ってるよ。ほんとうによく似合ってる!」
なんだか様子が変だけど、似合ってると言ってくれてホッとする。
僕の寝巻きは三毛猫のふわふわ着ぐるみパジャマ。
昨年の誕生日に翔太と七海ちゃんからもらったものだ。
僕に似合うと思ってと冗談まじりにもらったけど、意外と着心地が良くて気に入っている。
これ、ふわふわの耳も尻尾もついててかわいいんだ。
「佳都くん、こう言うのが好きなのか?」
「これ、直己さんの妹さんとその彼に誕生日プレゼントにもらったんですけど、着心地良くって重宝してるんです」
「……へぇ、七海と彼氏にね……」
急に直己さんのテンションが下がったように見えた。
もしかしたら、七海ちゃんに彼氏がいることを知らなかったとか?
うわ、僕、余計なこと言っちゃったのかも……
「いや、あの……」
「本当にそれ、よく似合ってるよ。それじゃあ私もさっとシャワーを浴びてくるから先に寝ててもいいよ」
「あ、じゃあもう少し準備しておきたいのがあるので待ってますね」
僕の言葉にニコリと笑って直己さんはお風呂場に向かった。
直己さんのテンションが急に下がったみたいだったけど、そんなに七海ちゃんに彼氏がいるのがショックだったのかな?
八つも離れてるって言ってたし、七海ちゃんのこと可愛くて仕方がないのかもね。
翔太は気遣いもできる優しいやつだし、直己さんも気にいると思うけどなぁ。
会ってみたら意外と仲良くなるかも。
そんなことを考えながら、キッチンで明日の朝使うものを用意していると、
「お待たせ」
と直己さんがお風呂から出てきた。
セットされていた髪が下りていて、一瞬ドキッとしてしまった。
ちょっと幼く見えてなんだか可愛く見える。
「どうした? 準備は終わった?」
「あ、はい。終わりました」
「じゃあ、そろそろ寝ようか」
当たり前のように肩を抱かれ、寝室に連れて行かれた。
きっと直己さんはスキンシップが多いほうなんだろうな。
年の離れた弟妹がいると、スキンシップが多くなるって聞いたことある……ような気がする。
直己さんのベッドはキングサイズというだけあって、とてつもなく大きなベッドだったけれどそれ以上に部屋が広いから全く圧迫感がない。ふぇー、ほんとすごいな。
「佳都くん。おいで」
横たわった直己さんが布団をあげながら声をかけてくる。
そのセクシーな姿に思わずドキリとしてしまう。
「は、はい。お邪魔します」
おずおずと中に入ると、直己さんがギュッと腕の中に閉じ込めてくる。
「わっ」
「ああ、ごめん、ごめん。なんだか懐かしくなっちゃって。小さいのを抱っこして寝ると熟睡できるんだよね」
やっぱり僕はペット代わりか。
それでも直己さんがぐっすり眠れるなら、それでいいかも。
「いえ、別に嫌じゃないので大丈夫です」
「そう? なら、遠慮なく」
そのまま直己さんの腕にぽすっと頭を乗せた状態で抱き込まれる。なんだか僕もすごく気持ちが良くなってきた。
直己さんの穏やかな呼吸音と心地よい体温に僕はあっという間に眠りに落ちていった。
「おやすみ、佳都……」
甘く蕩けるような優しい声は僕の夢の中へ消えていった。
僕の住んでいたアパートよりもずっと広い部屋をあてがわれて驚いた。
けれど、どうやらこの家の中でこの部屋が一番小さいらしい。
カルチャーショックに驚きながらも、とりあえず荷物を部屋の中央に置いた。
「そういえば布団がないな」
確かに一人暮らしだと自分用以外の布団なんて揃えないな。
そもそもこんな高層マンションじゃ布団干したりするのも大変そうだ。
「あの、僕はソファーでもどこでも寝られるので大丈夫ですよ」
「いや、うちのソファーは少し柔らかすぎて寝るのにはあんまり適してないんだ。よかったら一緒に寝ないか?」
「えっ?」
一瞬聞き間違いかと思った。
一緒に寝る?
翔太の家に泊まりに行った時は同じ部屋で寝たけれど、布団はもちろん別々だった。
でも、直己さんが言ってるのって同じ布団ってことだよね?
それって普通なのかな?
「私はキングサイズのベッドを置いてるんだ。佳都くんくらい華奢な子なら余裕で一緒に寝られるよ」
「でも……それだと直己さんが眠れないんじゃ?」
一人で寝るのにキングサイズを置いているのは広々としたベッドでゆったりと眠りたいからに違いない。
そんな場所に僕が入り込んだら直己さんの睡眠を妨げてしまいそうだ。
「大丈夫だよ。私は実家でずっと犬を飼っていたんだ。知らない間にしょっちゅう私のベッドに潜り込んでくることもあってね、そのせいで隣に何がいても気にならないから平気だよ」
えっと……それってどう言ったらいいんだろう。
僕はペットと同じっていうことなんだろうか?
でも、直己さんがそう言ってくれてるなら、別に気にすることはないのかもしれない。
「あの、じゃ、じゃあ……それで」
「ああ。そうしよう」
なぜか直己さんはご機嫌になって、ベッドの準備をしにいくと言って自室に入っていった。
きっと久しぶりにペットみたいなのと一緒に寝られると喜んでいるのかもしれない。
意外と直己さんって可愛いところがあるのかもな。
そんなことを思いながら、僕はキッチンに向かった。
「買いすぎたかなと思ったけど、いろんな食材買っておいて正解だったな」
そんなことを呟きながら、明日の朝食の下拵えをしていると
「いい匂いがするな」
と声が聞こえた。
「明日の朝食用に出汁をとっておこうと思って」
「じゃあ明日の朝食は和食だな。ああ、楽しみだな」
「はい。楽しみにしててください」
僕の料理を楽しみにしてくれるのが嬉しい。笑顔で返すと、直己さんはなぜか急に黙り込んだ。
「直己さん? どうかしましたか?」
「あ、いや、なんでもない。風呂は好きに使ってくれていいから」
「お風呂なら直己さん、お先にどうぞ」
「いや、佳都くん先に使うといい。私は少し仕事が残っているから」
そう言われて仕事の邪魔をするわけにもいかず、僕は先にお風呂を使わせてもらうことにした。
脱衣所で服を脱ぎ、ガラガラと引き戸を開ける。
すると、僕のアパートとは比べ物にならないほど広いお風呂場が現れた。
「うわぁーっ、ひろっ!」
思いっきり足を伸ばしてもまだ余るほど大きな浴槽がある。
洗い場も広い。本当にすごいな。
「シャンプーとボディソープ、勝手に使っちゃっていいかな?」
せっかく家に戻ったのに、それらを持ってくるのを忘れてしまっていた。
でも、持ってきたとしてもこの豪華なお風呂場には置くにはあまりにも不釣り合いだったかもしれない。
「すみません、今日だけお借りします」
誰にも聞こえないだろうけど、一応そう断りを入れてからシャンプーボトルをプッシュした。
ふわりと漂ってくるその匂いに一瞬あれ? と思ってしまったのは、さっき直己さんに肩を抱かれた時に香ってきた匂いだったからだ。
そっか。
このシャンプー使ってるんだもんね。
直己さんとお揃いかぁ……
そう思った瞬間、その広い浴槽に直己さんが入っている姿が頭をよぎってドキッとしてしまう。
何変なこと考えてるんだ。直己さんに申し訳ない。
パンパンと頬を叩いて、余計なことを考えないように急いで髪と身体を洗った。
浴槽に浸かりながら、七海ちゃんのことを思い出す。
そういえば七海ちゃんに連絡しとかないと。
僕がお兄さんに気に入ってもらえてるか心配してくれているかもしれない。
それでもこの気持ちいいお風呂からすぐに出る気にはなれず、ホカホカになるまで温まってからお風呂を出た。
脱衣所に出ると、心地よい温度に身体がふわっと浮かんでしまいそうになる。
身体を置いてあったフワッフワのバスタオルで綺麗に拭く。そして、こんな綺麗な脱衣所には不釣り合いかもしれない寝巻きに着替えた。脱衣所に置いてあったドライヤーを借りて髪を乾かしてからリビングに向かう。
そこで直己さんがパソコンを広げてカタカタと文字を打っているのが見えた。
真剣な顔つきがなんともカッコいいな
思わず足が止まり、その姿を見ているとふっと直己さんの視線がこっちに向いた。
「佳都くん、出てき――っくっ――! その格好……」
急に大きな手で鼻を押さえながら僕を見ている。
やっぱりおかしかったかな……?
「すみません、これ寝巻きなんですけど……やっぱり変でしたか?」
「い、いや……よく似合ってるよ。ほんとうによく似合ってる!」
なんだか様子が変だけど、似合ってると言ってくれてホッとする。
僕の寝巻きは三毛猫のふわふわ着ぐるみパジャマ。
昨年の誕生日に翔太と七海ちゃんからもらったものだ。
僕に似合うと思ってと冗談まじりにもらったけど、意外と着心地が良くて気に入っている。
これ、ふわふわの耳も尻尾もついててかわいいんだ。
「佳都くん、こう言うのが好きなのか?」
「これ、直己さんの妹さんとその彼に誕生日プレゼントにもらったんですけど、着心地良くって重宝してるんです」
「……へぇ、七海と彼氏にね……」
急に直己さんのテンションが下がったように見えた。
もしかしたら、七海ちゃんに彼氏がいることを知らなかったとか?
うわ、僕、余計なこと言っちゃったのかも……
「いや、あの……」
「本当にそれ、よく似合ってるよ。それじゃあ私もさっとシャワーを浴びてくるから先に寝ててもいいよ」
「あ、じゃあもう少し準備しておきたいのがあるので待ってますね」
僕の言葉にニコリと笑って直己さんはお風呂場に向かった。
直己さんのテンションが急に下がったみたいだったけど、そんなに七海ちゃんに彼氏がいるのがショックだったのかな?
八つも離れてるって言ってたし、七海ちゃんのこと可愛くて仕方がないのかもね。
翔太は気遣いもできる優しいやつだし、直己さんも気にいると思うけどなぁ。
会ってみたら意外と仲良くなるかも。
そんなことを考えながら、キッチンで明日の朝使うものを用意していると、
「お待たせ」
と直己さんがお風呂から出てきた。
セットされていた髪が下りていて、一瞬ドキッとしてしまった。
ちょっと幼く見えてなんだか可愛く見える。
「どうした? 準備は終わった?」
「あ、はい。終わりました」
「じゃあ、そろそろ寝ようか」
当たり前のように肩を抱かれ、寝室に連れて行かれた。
きっと直己さんはスキンシップが多いほうなんだろうな。
年の離れた弟妹がいると、スキンシップが多くなるって聞いたことある……ような気がする。
直己さんのベッドはキングサイズというだけあって、とてつもなく大きなベッドだったけれどそれ以上に部屋が広いから全く圧迫感がない。ふぇー、ほんとすごいな。
「佳都くん。おいで」
横たわった直己さんが布団をあげながら声をかけてくる。
そのセクシーな姿に思わずドキリとしてしまう。
「は、はい。お邪魔します」
おずおずと中に入ると、直己さんがギュッと腕の中に閉じ込めてくる。
「わっ」
「ああ、ごめん、ごめん。なんだか懐かしくなっちゃって。小さいのを抱っこして寝ると熟睡できるんだよね」
やっぱり僕はペット代わりか。
それでも直己さんがぐっすり眠れるなら、それでいいかも。
「いえ、別に嫌じゃないので大丈夫です」
「そう? なら、遠慮なく」
そのまま直己さんの腕にぽすっと頭を乗せた状態で抱き込まれる。なんだか僕もすごく気持ちが良くなってきた。
直己さんの穏やかな呼吸音と心地よい体温に僕はあっという間に眠りに落ちていった。
「おやすみ、佳都……」
甘く蕩けるような優しい声は僕の夢の中へ消えていった。
