何度も唇を喰まれて恐る恐る唇を開く。待ってましたとばかりに直己さんの肉厚な舌が滑り込んできた。
あ、やっぱりディープキスだ……と思った瞬間には、僕の舌が絡め取られてしまっていた。

「んんっ……ん」

舌先に吸いつかれて、ゾクリと心地よい快感が身体を走った。

こんなところが感じるなんて、直己さんとキスをして初めて知ったんだ。

   ◇◇◇

心地良い匂いに包まれながら僕は目を覚ました。

あれ? 僕、どうしたんだっけ?

そう一瞬思ったのも束の間、直己さんにギュッと抱きしめられているのを見て、眠ってしまう前のあの出来事を思い出した。

――可愛い佳都。愛してるよ

蕩けるような甘い囁きが僕の耳に残っている。
ああ、僕……直己さんと本当の恋人になれたんだ。
幸せすぎて直己さんに抱きつくと、身体中がモコモコとした感覚に包まれていることに気づいた。

眠っている直己さんを起こさないようにそっと布団を捲ってみると、見覚えのある寝巻きを着ている。

あっ、これ……あの時の、ウサギだ!

直己さんからプレゼントされた着ぐるみパジャマ。
あの時着るつもりだったのにお風呂で倒れてそのままになっちゃってたやつ。

これ、わざわざホテルに持ってきてくれてたんだ。

直己さんってば。優しいな。

ってあれ?
これ、僕自分で着た覚えが全然ない。
直己さんがお風呂に入れてくれて、尚且つ着替えまでしてくれたってこと?

うわっ、恥ずかしい。
自分が覚えてない分、なんか余計恥ずかしく感じる。

あまりの恥ずかしさに思わず目の前にある直己さんの胸元にすりすりして顔を隠してしまった。

「また可愛いことしてる」

「あっ、直己さん、起きてたの?」

「笑顔になったかと思えば、急に顔を赤くしたり、そうかと思えば急に胸元に擦り寄ってきたり……そんな可愛いことされて起きないわけがないだろう」

「だって、僕……いつ着替えたかも知らなくて……」

だから余計に恥ずかしいんだ。

「ああ、それか。それは私が悪いんだ」

「えっ?」

「初めての佳都に無理させたからな。身体を綺麗にするくらい当然のことだ。どうだ? 身体はキツくないか?」

「あの……まだ、直己さんが中にいるような、気がしますけど……でも、それは嬉しいから、大丈夫です」

正直に答えると途端に直己さんが顔を歪める。

「くっ、佳都……それ以上言うとまた暴走してしまうから」

「えっ? それはどういう――んんっ!」

急に直己さんにキスされて驚いてしまったけれど、僕の唇も、身体も直己さんから与えられるキスの快感を覚えてしまっているからすぐに蕩かされてしまう。

「んんっ……あっ」

もっと……と思った瞬間、直己さんの唇が離れていって急に寂しくなってしまう。

「ん……っ、なお、きさん……」

「そんな顔をするな。また愛したくなるから……」

「してくれていいのに……」

「そんなに私を甘やかさないでくれ。これからもずっと佳都と一緒に過ごすんだから、今日は佳都を休ませたいんだ」

直己さんの心遣いが嬉しくて僕は直己さんに抱きついた。

「くっ、だから煽るなって」

「えっ?」

「いや、そ、それよりもそのパジャマどうだ?」

「これ、すっごく気持ちいいです。思っていた以上にふわふわですね。でも、僕には可愛すぎないですか?」

「佳都ほど似合う人はいないよ。ああ、私の可愛いウサギ」

ふわふわのパジャマを撫で回す直己さんの手つきが少し怪しい。

「もっ、なお、きさんったら……」

「ごめん、ごめん。こんなに可愛いウサギが私のものだと思ったら抑えられなくて」

「もう!」

「怒った顔も可愛いな、――うわっ、け、佳都っ」

揶揄われるばっかりなのが悔しくて、直己さんの脇をくすぐると、どうやら直己さんはここが弱いらしい。

「直己さん、可愛い」

「ちょっ、佳都っ、こらっ」

「うわ、もうっ、直己さん、くすぐったいっ!」

「佳都がくすぐるからだろっ」

布団の中でお互いにくすぐり合いながら、

「ははっ」
「ふふっ」

顔を見合わせて笑った。

僕に恋人とこんなイチャイチャするような朝が来るなんて思いもしなかったな。


「ルームサービスでも取ろう」

お腹がくぅと鳴ってしまったのが聞こえていたようで、直己さんが手際よく食事を頼んでくれた。

「わざわざ持ってきてもらわなくても食べに行きましょうよ」

「いや、多分だが、今日は動けないと思うぞ。それに……」

「んっ? それに……?」

なんだろう? 少し直己さんの表情が甘い。

「佳都のこんな可愛くて色っぽい姿、誰にも見せたくないからな」

「色っぽい……って、どこがですか?」

「わからないのか? すぐに発情しそうな瞳をしてる」

「は、発情って……」

「だから、今日は私の傍から離れないで私だけの佳都でいてくれ」

いまいち直己さんの言っていることがわからなかったけれど、こうやって直己さんに独占欲を持ってもらえるのが僕は全然嫌じゃない。

僕も外に行って誰かの視線が気になるよりは直己さんとずっとイチャイチャしていたいし、まぁいいか。


そんなことを言い合っている間に、部屋のチャイムが鳴った。
「ちょっと待っていてくれ」と言って直己さんがさっとベッドを下りて寝室を出ていった。

広いベッドに僕だけが取り残されて一気に寂しくなってくる。
うん、やっぱり今日の僕はいつもと違うみたい。

あんなにずっと一緒だったから、急に離れるのが寂しいのかもしれない。

だから、ずっと部屋で過ごすのが正しいのかもしれないな。


直己さんは大きなテーブルを持って寝室に戻ってきた。
どうやらこれでベッドに座ったまま食事ができるらしい。

手際よくテーブルを設置し、持ってきてもらった食事を並べていくと寝室中に美味しい匂いが漂い始めた。

「わぁっ、美味しそう! ――ぃたっ!」

あまりの美味しそうな匂いに誘われて身体を起こそうとすると、ズキリと痛みが走った。

「佳都。無理するな。私が責任持って佳都のお世話をするから」

急いで僕のところに戻ってきてくれた直己さんは僕とヘッドボードとの間に入り、ゆっくりと僕を抱き起こして後ろから僕を抱きしめるように座った。

「ほら、これで大丈夫だろう。食事にしよう。佳都、何から食べる?」

「えっ……あ、じゃあオムレツを」

直己さんは嬉しそうに目の前にある皿からオムレツを一口サイズに切ってスプーンに乗せ、僕の目の前に運んでくれる。

「佳都、あ〜ん」

「じ、自分で食べられますよ」

「今日は私が佳都の世話をすると言ったろう?」

そう言われてスプーンを持っていかれてはどうすることもできない。
結局、デザートの苺とメロンまで全部直己さんに食べさせてもらうことになってしまった。