ティゼ村では村の長老含めて、アリアが帰って来ないことを心配し、村の大人達、何人かで、アリアを探しに王都に行こうとしていた。

「皆んな、落ち着け。アリアももう18だ。子供じゃないんだぞ。何かあったとしても、自分で対処くらいできる」
「ですが、ベルディ長老、もし変な輩に絡まれて、連れ去られたり、アリアの両親のように盗賊に殺されてしまったりしたら、どうするのですか!」

 アリアの親友であるティナはそう声を上げるが、ベルディは取り乱すこともなく、平然と告げる。

「アリアは大丈夫だ。ちゃんと帰って来る」

 アリアには未来を見ることが出来る力があるということを。アリアの両親から死ぬ前に話された為、ベルディは知っていた。

「ベルディ長老は、何故、そんなにと冷静でいられるのですか? 貴方がアリアを育てたようなものでしょうに」

ティナの言葉にベルディはそうだなと静かに呟く。ベルディにとってアリアは娘のような存在である。

 アリアの両親が賊に襲われ、殺されてからベルディが育ててきたのだ。
 
「私も心配ではある。だが、今はアリアの帰りを待つということが大事だと思うんじゃよ」

 アリアは、きっと帰って来る。
 ベルディは何故か強くそう思ったのであった。


✴︎



 王城を離れたミカル達は王都を通り越し、王都から少し離れたリゼーヌ村という小さな村で、休息を取ることとなった。

「アリア、今朝から少し顔色が悪かったが、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」

 とは言ったものの、今朝から頭が痛いのと、寒気がするので、大分、調子が悪い。ミカル王子やミカルに仕える騎士達に心配はかけたくないが為に、言い出せなかったのだが。

「大丈夫な顔に見えないんだが。まあ、今日はゆっくり出来ると思うから、休んでくれ。俺と護衛の奴らは隣の部屋にいるから、何かあったら声を掛けてくれ」
「わかりました」

 ミカルが部屋から出て行ったのを確認し、アリアは白いふかふかのベットに寝転がる。
 王都を離れてから、3日が経った。アリア達は今、リゼーヌ村という村の宿屋にいる。

「皆んな、心配しているだろうな」

 自分が帰るべき場所であるティゼ村のことを思いながら、帰ったらこっぴどく怒られるか、暫く、外出出来なくなりそうだなという良くない方向に事が進むかもしれないという不安に駆られる。
 しかし、そうなる前に謝ればいいのだとアリアは自分に言い聞かせた。

「私はミカル王子を、これからも守ることはきっと出来ない」

 アリアはミカルの騎士でもなければ、友人でもない。ただのごく普通の何処にでもいる平民である。けれど、自身が持つ力が人の命を救う事が出来ることをアリアは身をもって知っていた。

 過去にもティゼ村にいるであろうアリアの親友であるティナ。
 彼女が義理の兄から性的な虐待をされ、誰にも言うことができないまま自ら命を断とうとする未来を見たアリアは、そうなる未来を回避する為、行動を起こし、大切な一人の親友を救う事が出来た。

「もし、叶うのなら、私はこれからもミカル王子を自分の持つ力を使って、守っていきたい」

 アリアは村に帰ったら自分の気持ちをベルディに伝えようと心に決めたのであった。

 窓から見える空は茜色に染まりつつある。アリアの紫の瞳に空の色が揺れるように映った。