リディアール王国の王都ルティールとは反対に位置する街〈セディア〉。

 ミカル、ディオール、アリアの三人はセディアの街にある宿屋が泊まることに。
 しかし、宿屋にある部屋が、一部屋しか空いていなかった為、二部屋、借りることが出来なかった。

 よって、三人は同室で一夜を共にすることになったのである。




 その日の夜、アリアは夢を見た。
 バルハール帝国の暗殺集団にアリアが連れ去られそうになり、何とか逃げようと走るが、迫り来る追っ手に捕まってしまいそうになる。そんな悪夢のような夢を見た。

「んん……嫌……こないで……」
「大丈夫か?」

 アリアはうなされていた。しかし、ミカルの声で目が覚めたのか、ベットから身体を起こす。

「大丈夫です。起きてたんですね」

 平然とした顔でミカルに返事を返したが、アリアの体は震えていた。ミカルはそんなアリアを見て大丈夫には見えないな、と心の中で呟き、アリアを抱き寄せ、安心させる為に背中を優しく撫でる。

「大丈夫、大丈夫だ。アリア」

 ミカルの声が心地良くアリアの耳に届く。
 落ち着く、安心する。そうアリアは思った。そして、また、意識を手放した。

「寝ちゃったか」

 ミカルの腕の中ですー、すーと寝息を立て寝ているアリアを見て、ミカルは優しい笑みを浮かべて、ベットの上にアリアを寝かせ、白い布団を掛けてやる。

「俺とこの娘は出会うべくして出会ったのかもしれないな」

 ミカルは腰を下ろしていたアリアが眠るベットから立ち上がり、隣のベットで眠るディオールの方に視線を向ける。
 どうやら、ディオールは熟睡しているようだ。疲れが溜まっていたのだろう。
 ミカルは「いつも、ありがとうな」と眠っているディオールに告げて、部屋に窓の前まで足を運ぶ。

「綺麗な夜空だ。皆、どうしているだろうか?」
 
 部屋の窓から見える夜空を見上げて、ミカルは静かに呟いた。 

✴︎

 翌日の朝。
 ミカルはディオールとアリアに一度、城に戻りたいということを伝える。

「一度、城に戻って、自分の騎士を数名連れて行きたい。ディオール一人だけではやはり不安だからな」
「そうですね。けれど、城に戻ることは危険が伴うかもしれないので、ミカル王子殿は城に入ることはしないで頂きたく思います」

 ディオールはミカルの身を案じてそう告げる。アリアもディオールの言葉に強く頷きミカルを見た。
 
「ああ、わかった」



 翌日の早朝に宿屋を出て、昨日振りに城に戻って来たアリア、ミカル、ディオールの三人。ディオールはアリアにミカルの側に居るよう任せ、城に入って行った。

 城近くの坂道に残されたアリアとミカルは互いに口を開くことなく、無言が続く。
 アリアは心地良い朝の空気を感じながら、隣に立つミカルを横目に見る。

(初めて会った時はそんなに意識して見てなかったから思わなかったけど、綺麗な顔してるんだな)

 アリアは心の中で、ミカルの整った容姿に感心する。

「アリア、お前は何処出身なんだ? 帰らなくて大丈夫なのか?」
「私はティゼ村という村出身です。帰らなくて大丈夫という訳ではありませんが。心配はしているかもしれないです」

 アリアは苦笑しながらそう返答し、明るくなり始めている空を見上げる。

 本当は長老に頼まれていた茶葉を受け取り、王都の店々を少し見て回ったら、帰るつもりでいたが、ミカルと出会い、未来を見たことによって、状況が変わり、こうして今に至るのだ。

「そうなんだな。今からでも帰った方がいいんじゃないか?」
「その方がいいのかもしれませんが、私はまだ帰れません。未来を見てしまったから」

 未来を見た相手が、このリディアール王国の第一王子であったからでもあるが。自分が帰ったら、良くない未来が起きてしまうかもしれない。そう思ったからでもあった。
 
「そうか」

 未来を見れる力を持つアリアのことをミカルはいい意味で気になっていた。昨日、出会ったばかりだが、まだ、名前と生まれ育った場所しか知らない。

 暖かな朝の陽の光に照らされながら、ミカルとアリアはそれぞれの思いを胸に、ディオールが戻って来るのを待っていた。