「今頃、ミカル王子殿下は暗殺集団の手によって、殺されているだろうな。これで、俺が王になれる」

 リディアール王国の第二王子ゼノ。
 彼はこのリディアール王国の第一王子であり、兄でもあるミカルのことを嫌っていた。

 それは、ミカルが自分よりも優れていることは勿論のこと、自分にはない人を惹きつけるカリスマ性がミカルにはあり、両親からも期待されていることが気に食わなく、腹立たしいからでもある。

 幼い頃から嫌いだった訳ではない。大きくなるにつれて、些細な出来事を積み重ねるにつれて、嫌いになっていったのだ。
 
「殿下は後悔していないのですか? ミカル王子殿下を殺すという選択をしたことを」

 ゼノの騎士の一人であるレイラがそう問えば、ゼノはため息を吐き腰を下ろしていた席から立ち上がる。

「レイラ、俺は、後悔はしていないんだ。俺にとって、ミカル王子殿下はたった一人の兄でもある。だが、今の俺はミカル王子殿下が嫌いであり、憎くて仕方ない」

 レイラはゼノが幼少期の頃から、ゼノの護衛騎士の一人として側にいる。長い付き合いであるレイラにはわかった。ゼノは本気であるのだと。

 ミカル王子が嫌いであり、憎くなってしまったのは、ゼノの周りにいた人間が原因だろう。レイラはゼノが望むのであれば、どんな事もすると決めていた。例えそれが残虐非道なことであったとしても。

「レイラ、ごめんな。俺はとても醜い」

 執務室にある窓の前に立ち外の景色に目を向けているゼノの顔が窓ガラスに映る。一瞬、少し悲しそうにしたのをレイラは見逃さなかった。けれど、何も言うことは出来なかった。



 ミカル、ディオール、アリアの三人は王城へと続く坂道を歩いていた。王城の門が少し遠くに見え始めてきた時、また頭に強い痛みが走る。

「うっ……」

 アリアは頭を抑えて、その場にしゃがみ込む。そして、苦しそうに顔を歪めて、ミカルとディオールを見る。

「アリア、大丈夫か?」

 ミカルはその場にしゃがみ込んだアリアに対して心配そうに声を掛ける。
 
「大丈夫です……」

 また未来を見てしまった。
 第二王子ゼノの手によって、ミカルは捕らえられ、殺される。
 このまま城に戻れば、きっと計画が失敗したことや王子が生きていることも全て、ゼノ王子殿下に知られてしまう。

「また、未来を見ました。ミカル王子殿下、ゼノ王子殿下が、貴方の命を狙っています。今、城に戻れば貴方は捕えられてしまう。そして、最終的には殺される」

 頭の痛みが引いてきたおかげで、アリアは普段通りの声色でミカルに伝えることができた。
 
「俺がゼノ殿下に殺されるって、正気か?」
「確かに、ゼノ王子殿下は殿下のことを嫌っておいでですし。昔は仲が良かったんですけどね。殿下が次期国王に指名されてから、距離を置かれましたし」

 アリアが見たこれから起こるであろう未来の話しを聞いたミカルとディオールは互いに顔を見合わせ頷き合う。

「アリア、俺は君が持つ力が本当なのか、まだ信じきれていないんだ。だけど、俺は君が見たという未来を信じよう。君は嘘をついているようには見えないから」
「私も殿下と同じ思いです」
「信じてくれてありがとう」

 アリア、ミカル、ディオールの三人は城に戻るの辞めて、歩いてきた坂道を下る為、また歩き始める。



 本来なら暗殺集団によって殺されるはずであったミカルはアリアが持つ未来を予知出来る力によって命を救われた。 

 そして、暗殺集団に多額の金額を払って、ミカルを殺すという計画が失敗したことが、ミカルが城に戻って来たことにより知り得た第二王子ゼノは、ミカルを捕え、ゼノの手によって殺されるはずであった。

 しかし、アリアがまた未来を予知したことにより、起こり得た未来を回避することが出来た。
 そして、この出来事を発端に未来は少しずつ変わっていくことになる。