平穏な王都の街並みを黒いフードマントを被った集団が馬に乗り駆けていく。
人々は馬に乗り掛けていく集団を何だ?と興味を示し見ながら、駆け去って行く集団の姿を見送った。
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「本当に王都に来ているんですかね?」
「確かに王都に来ているはずだ。けど、もう居ないかもしれない。王子が付けている香水の香りはするんだが」
黒いフードマントを被った男はそう呟き、マントを翻し、再度、馬に跨り、仲間に「行くぞ」と声を掛けてその場から立ち去って行く。
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リディアール王国の王城リステルへと続く坂道をアリア、ミカル、ディオールの三人は歩いていた。
晴れた空の下、王城へと続く坂道の両サイドには桜の木々が立ち並んでおり、心地良い風が吹く度に、木々が揺れ、桜の花びらが舞い落ちてくる。
「綺麗ですね」
「ああ、毎回、此処を通りたくて王都に行く者も何人かいるみたいだ」
「そうなんですね。それは、知りませんでした」
再び三人の間に沈黙が訪れる。
ミカルはアリアのことをもっと知りたいという思いから口を開く。
「アリア、お前は王都出身ではないのか?」
ミカルはアリアが髪につけている髪飾りがこの辺では見掛けない物であった為、王都出身ではないのかもしれないと思い至る。
「あ、はい! 私は王都から離れたティゼ村という村が出身です」
「やっぱり王都出身ではなかったか。今日は何で王都に来たんだ?」
「村の長老からの頼みで、取り寄せていた茶葉を取りに来たんです」
ミカルと出会うことがなければ、王都に立ち並ぶ店々を回れたのかもしれないが、今はそんなことはどうでも良い。こうして目の前にいるミカル、ディオールの命を自身が持つ力で救うことが出来たのだから。
「運命だったのかもしれない」
「ん? 何か言ったか? アリア」
「いいえ、何も」
「そうか」
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あの日、彼と出会っていなかったら、こんなに苦しい思いをすることもなかったのかもしれない。
「こうなる未来は予知できなかった。私は自分が憎くて仕方ないわ」
✴︎
リディアール王国と敵対関係にあるバルハール帝国。そんなバルハール帝国には名の知れた暗殺集団が存在する。
【黒の殺戮集団】という名称を持つ暗殺集団に所属しているラベルタは王都の街並みの中、馬を走らせながら数週間前のことを思い出す。
「リディアール王国のミカル王子殿下を殺して頂きたいのです」
敵対国であるリディアール王国の第二王子ゼノの使いの者だと名乗る男が暗殺集団【黒の殺戮団】の隠れ家にやって来たのは静かな夜更け頃であった。
「リディアール王国のミカル王子殿下だ? 何で、敵国の暗殺集団である俺達に頼む必要がある?」
「あなた方が優秀な暗殺者の集まりで出来た団体であることは知っています。この計画に失敗は許されないので、実力があり、実績もあるあなた方にお願いしたいのです。報酬は高くお支払い致します」
「ほう、こちらが望む金額で構わないと?」
「はい。構いません。ですが、失敗した場合はこちらから指定した金額をお支払い頂きます。失敗することはないと思いますが」
リディアール王国の使者である男はそう言い目の前にいる暗殺者達を見つめる。
少しの沈黙の後、緑髪の背が高めの若い男が腰を下ろしていた席から立ち上がり、男の前までやって来る。
「失敗はしない。俺達は今まで一度も失敗をしたことがないからな。対価を払ってくれるなら敵国であろうが関係ない。仕事として引き受けよう」
緑髪の男の言葉に、背後に居た黒髪の男は声を上げて「この依頼は辞めておいた方がいいんじゃないのか?」と声を上げるが、緑髪の男は首を横に振り返答する。
「確かに、敵国である国の人間に協力するのは良くないことではあるが、報酬は高くつけることが出来るんだ。お前らがやらないと言うなら俺一人でやって対価も貰うが、それでいいんだな?」
そんなのは嫌だと思ったのか、暗殺者である男達は首を横に振る。
緑髪の男は同じ暗殺者であり、暗殺集団に所属する仲間達を見回してから、再度、リディアール王国の使者である男に向き直る。
「では、この承諾書にサインをしてまた届けに来てくれ」
使者である男は頷く。そして緑髪の男に差し出された紙を受け取り、折りたたんでから、白いフードマントの外側のポケットの中にしまい込む。
「では、本人第二王子ゼノのサインが書け次第、お渡しに参ります」
使者の男は暗殺者達にそう告げてから、隠れ家を後にし、静かな夜の闇に消え去って行く。


