『アリア、目を覚ましてくれ』

 誰かが泣きそうな声で私の名を呼んでいる。
 懐かしい気持ちにさせる声の主は一体、誰なのだろう。

『アリア、お前を連れて来てしまったから、こうなってしまったのかもしれないな。未来を変える為に俺を救ってくれたのに。俺は何も出来なかった……』

 意識が朦朧とする中、声の主はミカル王子であらという事に気付く。そして、これは、これから起こる未来の何かを暗示しているということを何故かアリアはわかってしまった。

『アリア、どうか、目を覚ましてくれ。俺にはアリアが必要なんだ』

 私は未来で死ぬのだろうか。ミカルの泣きそうな声を聞いて、そう思わずにはいられなかった。



 外から聞こえる人の声でアリアは目を覚ました。アリアはベットから起き上がり、少し痛む頭を抑える。

「昨日のは夢……? いいえ、夢じゃないわ。あれは、これから先に起こる未来の何かを暗示だわ」

 これから先に何が起こるのか。それは、アリアにはまだわからない。けれど、良くないことであるのは確かである。ミカル王子ではなく、私が死ぬかもしれない何かが未来に起こるかもしれない。

 自分自身が死ぬかもしれない未来が例え待っていようと守りたいと思う物がある限りは、自分が信じた道を歩いていこうとそう強く思った。

「例え、この先に何があっても、私は守りたいと思う物を命に変えても守るわ」


✴︎


 昼過ぎ頃、アリア達はリゼーヌ村の宿屋を出た。
 外に出れば、村の両道に立ち並ぶ店々にいる店主の声や、行き交う人々の声や足音が混ざり合い、春の心地良い風によって、それぞれの耳に届きゆく。

「アリア、体調はどうだ?」

 宿屋を出て少し経った頃、アリアの隣に来たミカルがそう声を掛けてくる。

「大丈夫ですよ」
「そうか、ならよかった」

 ミカルは少し安心したように、優しい笑みをこぼす。アリアはそんなミカルを見て思う。
 きっと、ミカルではなかったら、自分の持つ力を打ち明けてまで、守りたいとは思わなかったかもしれない。

 ミカルのことを守れるように側にいるという選択をするには、村に一度、帰らなければならない。忘れかけていたが、ベルディに頼まれていた茶葉も渡さなければ、いけないのだった。

「ミカル王子、私、一度、村に帰ります」
 アリアが立ち止まりそう言えば、ミカルとミカルの騎士達は顔を見合わせて声にする。

「行く先もまだ、決まってなかったな。じゃあ、俺達も行くとしよう」
「そうですね」
「殿下はアリア殿の故郷に行きたいだけでは?」

 まさか着いて来られることになろうとは思っていなかったアリアはえっ?と思わずに聞き返してしまった。

「アリア、ほら、立ち止まってると置いてくぞ。というか、ティゼ村の行き方教えてくれ」
「わかりました!」

 目の前にいるミカルとミカルの騎士達。
 ディオール、グレイ、シバン、リドの四人の姿をアリアは紫色の瞳に映し、歩き始めた。

 アリアとミカルが陰謀の渦に巻き込まれていき、大きな出来事に繋がっていくことになるのは、また別のお話。