早朝。
シェラとアディは宿屋を出て、港へと歩き始める。
両道に立ち並ぶ桜の木々が心地良く吹く風によって揺れる度に、桜色の花びらが舞い落ちてくる。
「ねえ、アディ。私、昨日、とても怖い夢を見ような気がするの。あんまり、鮮明には思い出せないけれど、私とアディに良くないことが降り掛かる夢だった気がするのよね……」
「そうなの? でも、大丈夫だよ。それは夢であって、夢と同じように現実でも良くないことが起こるとは限らないからね」
「そうね」
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リビアーヌ国の左端にある港にシェラとアディは無事に着いてから、ルパニア国行きの船に乗ったのは10日目の昼過ぎ頃であった。
「無事、船に乗れたね。シェラ」
「そうね。もう此処まで来れば、多分、追っ手は来ないと思うわ」
「うん、そうだね」
晴れた空の下、船の上から見える水平線を見つめていた。
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その日の夜。
船室にて、アディはシェラに全てを話した。シェラと出会うのは初めてではないこと。
シェラが命を落とす度に自分アディは何度も過去に戻って、シェラを救う為にやり直していたこと。
「そうだったのね」
「うん、俺とシェラが、命を落とさずに逃げ延びれたことは今までの世界線で、一度もなかったんだ」
本来の世界線で、シェラはアディと共に追っ手から逃げる為、アルディーア帝国を目指していた。
しかし、リビアーヌ国で追っ手の騎士に捕まり、シェラとアディは命を落とした。
だが、一度、命を落としたアディはシェラと出会う前の日の夜に戻っていた。
何回もやり直しても、シェラは命を落とす。アディだけが命を落とさなかった時もあった。
その度に、アディは自分の手で命を終わらせたのだ。また、シェラと出会う所からやり直す為に。
「シェラ、俺は、君を救えたかな……?」
「ええ、私は貴方に救われたわ。アディ、ありがとう」
「はは、やばいな。俺、ちょっと泣きそうだ」
「泣いていいのよ。抱きしめてあげるくらいは出来るから」
シェラはそう言い、部屋にあるベットに腰を下ろしたまま、アディの方に向き直る。
アディは、シェラの顔を見て今にも泣きそう顔を向けて、シェラの手を優しく掴み引き寄せる。
「シェラ、俺、これから先もシェラの側で生きていきたい。でも、君は王族だ。王女としてやらなければならないことがある」
「ええ、そうね……」
「だけど、今、戻ったら危険だ。だから、シェラが自国に帰れるその時まで、俺の側に居てくれないかな?」
シェラを抱きしめるアディの手は震えていた。シェラは、アディの背に回していた片手で、アディの背中を優しく撫でる。
「ええ、私もアディ、貴方と一緒に居たいわ」
「うん。ありがとう、シェラ」
アディは、シェラが自国に帰らなければいけなくなるその時までシェラとの時間を大切に過ごそう。
そう強く思ったのであった。


