第一王子であるヴァリアントが、実の妹の手によって殺されたという事実が城内に広まりつつある中、シェラの近衞騎士の一人である男は心の中で呟く。

(ヴァリアント王子殿下を殺したのは、殿下ではないことを俺は知っている。それにしても、嘘で塗り固めた真実に、人はこうも簡単に信じるなんて、本当に哀れで、とても滑稽だ)

「おい、ルヴァン、聞いているのか?」

 金色の髪とセレストブルーの瞳を持つ、このヴァルローゼ国の第一王子であるリヴィアスに名を呼ばれてルヴァンと呼ばれた男ははっと我に変える。

「はい。何でしょうか?」
「聞いていなかったようだな。まあ、いい。もう一度言う。ルヴァン、シェラの近衞騎士であったお前が王立騎士団の団長と共に、俺の騎士であるSeven・Night《セブンナイト》含め、全体の指揮を取り、シェラの捜索に当たれ。見つけ次第、捕えて連れて来い。これは命令だ。断る拒否権はお前にはない」

 リヴィアスはシェラの近衞騎士であるルヴァンが、とても主に忠実な騎士であることを知っていた。
 だからこそ、断る拒否権を与える隙を見せてはならない。

「わかりました。見つけ出し、必ず連れて参ります」
「ああ、頼んだぞ」

 リヴィアスは期待を込めた声でそう告げ、セレストブルーの瞳をルヴァンに向ける。
 リヴィアスの目の前にいるルヴァンは表情を変えることはなく、平然とした顔でリヴィアスを見つめていた。



 船の上から見える水面を甲板から見下ろすように見つめながら、シェラは心地良い風によって靡く自身の金髪の髪を抑える。

「気持ちの良い風ね。実は私、自国から出るの初めてなのよね」

 ヴァルローゼ国の王女として自国外に赴き、他国の王族と関わる機会は今まであまりなかった。
 自国で開かれる国王の誕生日パーティーや、舞踏会などに招待という形で招いた時に他国の王族とはその場で話し交流した程度である。

「そっか、こんな形で自国から出ることになるなんてさ、あんまり良い気持ちしないよな」

 シェラの隣にいたアディはそう返答し、晴れ渡る快晴の空を見上げる。

「そうね……」

 アディのオレンジ色の髪が陽の光によって照らされ、時折、吹く風によって靡いている。 
 そんなアディの姿をシェラは横目に見つめてから、また視線を水面へと戻す。
 
 穏やかに波打つ水面を青色の瞳に映しながら、シェラは思う。
 どうして彼はヴァリアント王子殿下を殺したのだろう?と。
 シェラが知る彼は、とても優しくて、騎士という役職に誇りを持ち、真面目な人。
 
 だからこそそんな彼が、人を殺すなどするはずがないと思ってしまう。未だにヴァリアント王子殿下を殺し、殺した罪を私になすりつけたことに現実味が湧かない。

「どうしてこうなってしまったのかしら……」
「ん? シェラ、今なんか言った?」
「いいえ、何も言ってないわ」

 良くない未来が待っていたとしても、もう戻ることは出来ない。
 例え、自分が選んだ選択が間違っていたとしても、信じて進むことしか今の私には出来ないのだから。