相談屋のお店を開業した日の初のお客様であったエイヴァがまたお店にやって来たのは季節が秋から冬に移り変わろうとしている時期だった。
「あら、エイヴァさん、お久しぶりですね」
「サリーナさん、お久しぶりです」
「はい! 今日はどうされましたか?」
「あの、サリーナさんのお陰で冷静に自分の気持ちを旦那に伝えられるようになりました。本当にありがとうございます! あのこれ、苺ゼリーなんですけど、こういう食べ物とかのお渡し大丈夫であれば受け取ってください」
エイヴァはサリーナにお礼を伝えてから手に持っていた白い紙袋をサリーナに差し出す。
「ありがとうございます! 後で頂きますね」
「はい! では、失礼します」
エイヴァはそう言い店から立ち去って行く。
エイヴァが店から出て行った後、私はエイヴァから貰った苺ゼリーが入った白い紙袋をテーブルの上に置いてから再び仕事を再会したのであった。
***
その日の夜、ベランダへと出た私は星々が転々と浮かぶ夜の空を見上げながら前世のことを思い出していた。
前世の私は企業勤めの心理カウンセラーの仕事をしていた。
勤めていた会社は人間関係が悪く、パワハラやセクハラなども少なからずあった。
私はセクハラ被害にあっていたが上司に相談することが出来なかった。言う勇気がなかったからだ。
セクハラされるのを我慢しながら仕事をする。
そんな毎日に私は少しずつ精神的にやられていったのだ。今思えば、言えば解決していたことだったのだと思うが、前世の私にはそれが出来なかった。
「私、色々我慢していたんだなぁ……」
もう自分の気持ちを押し殺して伝えずに我慢するようなことは絶対にしない。サリーナとしての人生は後悔のない人生にする。
私はそう強く心に言い聞かせて夜の空に背を向けて部屋の中へと入った。
***
サリーナ・クロイシェル。
後世に名を残した人物の一人である。
王都で相談屋を営んでいた彼女はやがて王宮勤めの相談者にもなり、その名を轟かせることになる。
相談という仕事を通して色々な人の思い触れ続けたサリーナ。そんな彼女が死ぬ間際、最後に孫娘に残した言葉は「最高の人生だった」という。
サリーナが亡き後、孫娘は相談屋の仕事を継ぎ、今尚、王都には相談屋があり続けている。
『人の悩みや困りごとがある限りこの相談屋としての仕事は廃れることはない。この仕事は人がこの世界からいなくならない限りなくてはならない仕事であるのよ』
そう言っていた祖母の言葉を胸に私は今日も人々の話しを聞いて寄り添う仕事をする為に王都にある仕事場かつて亡き祖母が営んでいた場所へと向かい歩き始める。
「良い天気ね」
王都への道筋を歩きながら私は晴れた夏の空を見上げて一人呟き微笑んだ。


